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「解夏」

解夏「解夏」
さだ まさし
幻冬舎

さだまさしの短編集「解夏(げげ)」です。この本に掲載されている一作目が「解夏」。

失明に至る難病にかかってしまった主人公が職を辞して故郷:長崎に帰り、母と一緒に墓参りをするところから始まります。友人の眼科医、その友人に紹介していただいた同じ病の経験者、婚約解消したはずが長崎まで来て主人公に寄り添ってくれる婚約者、寺で巡り会う宗教家の老人等々多くの人のやさしさに囲まれながら失明という重い運命を受け入れていくまでを描いています。

最後は泣けてしまいます、短編ですが秀作だと思いました。さだファンになりそうです。

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「ニワトリ号一番のり」

ニワトリ号一番のり「ニワトリ号一番のり」
J.メイスフィールド
木島平次郎 訳
寺島 龍一 画
福音館書店

初めてきく小説でしたが「福音館のこのシリーズ、古典の名作だよな」と思い借りてきました。

中国からロンドンへ茶を運ぶ帆船(クリッパー)の競争に、はじめに乗っていた帆船が沈んでボートで漂流。新たに無人の帆船に遭遇し、この船で一番乗りを目指すという意外なストーリーでした。

船舶用語・航海用語が多く使われ、船の好きな人ならともかくなかなかその専門的な世界が理解しきれない感じがします。「児童書なのに・・・・?」、とも思うのですが、子どもの場合は却って集中力がありその世界に浸れるのでしょうか。

はじめに乗っていた陰険な船長、漂流するボートの中でもくせ者の同乗者が何人かおり、いやな雰囲気をなかなか抜け出せないストーリー。でも最後は表題通りの結果に幸せな気分でした。あ、それからもう一つ、挿絵がいいんだよね、この時代。

「春雷」

(祥伝社・1600円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

「春雷」
葉室 鱗
祥伝社

またまた葉室作品、今年3月発行の新刊本です。この人の作品、今まで読んだものはすべて時代ものでした。江戸時代の地方小藩を舞台にした小説、そして武士とその近くの女性を描くことが多いようです。

今回は藩財政立て直しのために悪役を全て引き受けた鬼隼人と呼ばれる主人公、一緒に干拓の仕事に携わる人食い七右衛門、大蛇の臥雲、あとから加わる玄鬼坊とよくこういう名前を集めたなと思いますが、わかりにくい主人公の背景や真意が最後に解き明かされていく感じです。

今回はストーリーには少々強引さを感じてしまいましたが、正義がかたられていくのはやっぱり面白いなと思います。

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「くちびるに歌を」

「くちびるに歌を」
中田永一
小学館

図書館で見つけました。ぱらぱらとめくってみると、「数か月前映画館の上映映画情報でたしかこんな風な作品があったな、その原作かな」と。合唱部の活動が舞台の内容で面白いかなと借りてきました。

女子生徒・男子生徒の二人の視点で物語が語られていきます。男子がなかなか一生懸命に歌わない、男子生徒と女子生徒の対立などなど中学生らしいおはなしです。アンジェラ・アキの「手紙~十五の君へ」がNHKのコンクールの課題曲になりヒットしたのは記憶にありますが、その作品がお話の中に流れています。

現代的な家族の悩み、障害を持つ家族のこと、友人関係のこと、音楽の道にすすんだ先生のこと(挫折?)などが詰め込まれて、最後はちょっと感動的。

でも、コンクールというものに疑問を呈していた先生のもとで唱った私たち、発声練習やパート練習というものを経ない合唱の世界に身を置いたものとしては、合唱といっても随分と違うんだなと思うところも大きいです。コンクールに向かって一生懸命、というところに感情移入はしにくいかな。

「ちゃんぽん食べたか!」

ちゃんぽん食べたか!「ちゃんぽん食べたか!」
さだまさし
NHK出版

 このところテレビで放映されているドラマ「ちゃんぽん食べたか!」の原作本で、今年5月30日発行という新しい本です。ドラマもなかなか面白く毎回楽しみに見ているのですが、図書館でこの本を見かけたので、すかさず借り出してきました。

ドラマの中では主人公を含めて(多分)全て仮名ですが、小説では特に支障のない限り実名で描かれています。さださんはどうやら私の一つ上の学年、中学から上京し下宿生活でバイオリニストを目指したとのこと。音楽のことはともかく日々の生活のことなど私も高校時代は下宿生活でしたので、お金のない時に即席ラーメンの売り出しがあってまとめ買いをしたとか、大変親近感を覚えてしまいます。著者が大学1年の時だったという浅間山荘事件は私が高校3年の2月、学校の図書館通いをしている時期で、図書館のカウンターの向こうのテレビに放映されていたのを思い出します。70年安保への学生運動も条約が締結されてしまった後は若者に無力感が漂い、潮が退くようになってしまったとのこと。今の安保法案への運動などもそうなってしまうのでしょうか。

バイオリン道には挫折したのかもしれませんが、一人暮らしをしている主人公のまわりにいろいろな人が集まってくる、学校生活も華々しいというわけではないでしょうが存在感ある高校生であったのだなと感じました。

さださんの小学生のころ、「この子のヴァイオリンは歌うんだよ」というようなことを言った先生がいたそうです。放送される曲を数回聴けば楽譜としてしまうというようなことも併せて、世の中には才能に恵まれた人はいるものだなと感心してしまいます。小説はデビューのきっかけとなるコンサートに向けて長崎新聞社を訪ねるところで終わってしまいましたが、これから書かれるであろう続編にも期待したいと思います。

「光圀伝」

光圀伝光圀伝
冲方 丁
角川書店

母のリハビリの先生のおすすめで、750ページ、しかも文字は小さいという大作でした。まずはこの作者の名前の読み方、なかなか覚えられませんでした。「うぶかた とう」、本当にそう読めるの?と、思ってしまいます。

光圀と言えば水戸黄門、お忍びの度の隠居大名というイメージが定着していますが、そういう事実は無いのだとは以前から聞いてきました。そして歴史の中ではたしか「大日本史」を編纂した(させた)ということで載ってきたと思うのですが、私の知識ではこのあたりは記憶に残っているかどうか怪しいほどでした。

この光圀伝によると、光圀という人はこの大日本史編纂という大事業の他に儒教の教えに深く傾倒し、詩の世界をきわめ、教育にも力を注ぐなどなど。そして兄の子に家督を譲るという義の人、歴史上の事実はしりませんがこの小説の中で語られる光圀像はまさに文化人。そういう人間光圀をよくここまで描いたなと感心しました。

この著者の他の作品「天地明察」は暦を作り上げた人物が主人公だとか、そういえばこの光圀伝の中にも暦を作り上げた人物が登場してきました。この人が「天地明察」の主人公か、同じように江戸時代の文化人の人物を描きあげるのかな、と想像してしまいます。ちょっと休んだら、この本にも挑戦してみようかな。

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「プロメテウスの罠 5」

プロメテウスの罠5

「プロメテウスの罠 5」
福島原発事故、渾身の調査報道
朝日新聞特別報道部
学研パブリッシング

シリーズ5冊目です。目次紹介します。

第25章 海鷹丸がきた
第26章 生徒はどこだ
第27章 いのちの記録
第28章 原発維持せよ
第29章 家が買えない
第30章 テロ大丈夫か

第28章は、「国のため、原発はなんとしても維持しなければならない」という側の人達のはなし。こういうサイドの取り組みにも淡々と語られていきます。こういうのが一つの報道の姿勢でしょうか。淡々と語られていることがまた痛烈な批判でもあるのかな、と思います。

第30章は、アメリカの同時多発テロ以降アメリカが取り組んできた原発へのテロ対策が絡んできます。その対策は2011年の福島原発事故にも生かせたのではないか、折角アメリカから情報をもらいながら・・・・。

原発事故の影響の広がりは大変なもの。こういった取材の情報ではじめて、「こんなところまで」と思わされます。自己以降原発の発電コストが見直され、「低コストだといわれてきた原子力発電が決して低コストではない」といわれるようになりました。廃炉費用や事故のリスクも加算して算出したコストだそうですが、それでも原発の発電コストは他の火力発電と同程度。このコストへの加算、充分な加算というのができるのでしょうか。原発のコストはこれだけ、と算定できてしまうことに疑問を感じてしまいます。

「果つる底なき」

果つる底なき

「果つる底なき」
池井戸 潤
講談社

平成10年の江戸川乱歩賞受賞作です。ということは、こういう作品も推理小説に分類されるのでしょうか。冒頭に作者の意欲的なコメントが載っており、作者の意気込みを感じます。

この作品が出世作?この著者の作品はどれも引き込まれる内容で、発表された順に読んでいるわけではないので、今まで読んだ中で一番古い作品です。あらすじを記すのはやめておきますが、さすがに受賞作。息詰まる展開で一気に読めてしまいました。

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「紙つなげ!」

紙つなげ

紙つなげ!
彼らが本の紙を造っている
再生・日本製紙石巻工場
佐々涼子
早川書房

石巻という街は日本製紙の企業城下町であるらしい。この日本製紙の主力工場:石巻工場が2011年の大地震に伴う大津波に飲み込まれた。前半はその被災の状況が語られ、このところ読んでいる「プロメテウスの罠」とも重なってくる印象でした。

壊滅的な被害、工場の閉鎖も予想される中、工場の復興に向かって歩み出すのがこの本のおもしろいところ。取りあえず主力マシン1台を半年で復興するという無謀とも言える目標をたて、各部署それぞれが奇跡的にその目標をクリアして次の部署に襷を渡していく。相手に無理難題をいっているようでありながら、その底辺には自己の信念と相手への思い遣りが隠れている。そして半年、復活のお披露目で製紙の長い工程を切れることなく紙がつながっていく、感動的でした。危機的な状況の中の人の心の暗部も語られていて、単なる復興の成功物語というだけでなく重いテーマを語ってくれているようです。

私も本は読みますが、本の紙をどこで造っているか、どんな風に造っているかなど考えることはありませんでした。ましてや、各出版社がもつ単行本・文庫・写真誌・コミック誌等々それぞれにこだわりがあり、使われる紙についてもそうであることなど思いも寄らないことでした。そのこだわりに製紙の技術者が誇りをもって応えていく、そんな技術者たちが未曾有の災害から復興を遂げていくはなし、読み応えがありました。

「武蔵と無二斎」

武蔵と無二斎「武蔵と無二斎」
火坂雅志
徳間書店

「この作家が徳川家康を書いた」との紹介が新聞の書評にありました。歴史物も好きなのですが今まで読んだことのない作家です。図書館でさすがに新刊本はまだなかったので、この作家のものとしてこの作品を借りてみました。剣豪伝もまたおもしろいかなと。

目次は以下の通り。

武蔵と無二斎
鬼の髪
殺活

初めは「武蔵と無二斎」、次の「鬼の髪」になったらもう武蔵だけで父:無二斎は登場しません。吉川英治作品にも出てくる奈良:宝蔵院の槍術とのことなどが語られます。次の「殺活」では同じ美作の武芸者:竹内久勝が登場、武蔵が出てきません。読み進めてやっと気づきました、この本は複数の武芸者の短編集だったのです。「武蔵と無二斎」という一冊の長編小説だと思っていたのですが、迂闊でした(笑)。短編集だということはどこにも書いてないのです。でも最終ページに「初出誌一覧」がありました、そこで気づくべきなのでしょうが、私としてはちょっとだまされた気分です。でも短編集もちょっと軽い読み物で楽しめました。