岸本聡里は今春高校を卒業して北農大学獣医学類に入学するべく、祖母と共に女子寮にやってきた。12歳で母を亡くし義母との間がうまくいかず中学時代はひきこもり状態、そんな聡里を支えてくれたのは祖母と愛犬パールの存在だった。15歳の誕生日に母方の祖母チドリに引き取られ、進学した高校は受験に学力検査も内申書も不要なチャレンジスクール。そして、学習塾の先生にも勧められて目指したのは獣医学部だった。
同年代との交流経験のほとんどない聡里が4人部屋の寮に入寮し、新たな勇気をもって自身の事を伝え、徐々に友人もできていく。寮長で頼れる先輩の静原夏菜と加瀬一馬、初めは聡里を嫌っていた同室の梶田綾香華、鳥の事にはやたらと詳しい久保残雪らと共に学内での講義や実習、学外での臨床実習に臨んでいく。
私の子どもの頃我が家は乳牛が二頭いて、手作業で搾乳しそれを水で冷やし牛乳を出荷していました。時には獣医師さんが来て肩の辺りまですっぽり包み込むゴム手袋をして牛のお尻から手を入れて診察したり、子牛が産み落とされてすぐに立ち上がったりと深くしまい込まれた遠い記憶も本書で語られる情景から蘇り、懐かしさも感じられた作品でした。
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