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「秋霜」

秋霜秋霜
葉室 麟
祥伝社

 豊後羽根藩の欅御殿で儒学者の臥雲、おりうとともに孤児達を育て平穏に暮らす楓。そこに剣ではなく木刀を携えた不遇の男:草薙小平太が訪れる。腕は立つが薪割りや水汲みなど下男の仕事を黙々とこなす小平太が欅御殿の面々に次第に溶け込んでいく。小平太をはじめ欅御殿にかかわる多くの大人達が当初の思惑の好悪にかかわらずいつのまにかここに住む人たちを守っていこうと思ってしまう。非道とも思われた藩の重臣の心の底にもその人独自の武士道が流れたりして、このあたりが葉室さんでなければ描けない武士道かなと思いました。

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「八月の太陽を」

八月の太陽を八月の太陽を
乙骨淑子 作
滝平二郎 絵
理論社

 1800年頃起きたアフリカ人とアフリカ人を祖先に持つ人々がフランスの植民地統治から解放され、奴隷状態からも解放される「ハイチ革命」を革命指導者トウセンを主人公に描いた作品。統治国フランスが、革命やその失敗、そしてナポレオンの時代へと激動する中で先を見据えたトウセンの忍耐力・判断力・指導力がよく描かれています。ここでも植民地支配や民族差別を知ることができました。そして民主化のための長い戦いも。

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「勿忘草の咲く町で」

勿忘草の咲く町で

勿忘草の咲く町で
~安曇野診療記~
夏川草介
角川書店

 「神様のカルテ」シリーズでお馴染み・夏川草介さんの新作。長野県松本市郊外にある民間病院を舞台に、本業お医者さんの著者ならではの若い看護師・月岡美琴と研修医・桂正太郎の物語。患者の高齢化で胃瘻や認知症・介護・看取りなど退院しても自分の生活に戻れるわけではない患者さんの治療のあり方、過重労働など地域の病院が抱える重い課題に正面から向き合い、その悩みが若い二人の物語の中に語られています。もちろん二人の関係にはちょっとワクワク。
「神様のカルテ」の主人公とも接点ができそうだったのですが、その楽しみは続編へ残したようです。と言うわけで続編も出してくれるんでしょうね、期待しています。

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「水曜日の手紙」

水曜日の手紙水曜日の手紙
森沢明夫
角川書店

 水曜日のことを書いて「水曜日郵便局」に送ると、その郵便局では集まった手紙をシャッフルして送ってくれた人へ転送してくれる。日々の生活に疲れた人、生き方に悩んでいる人が水曜日郵便局に手紙を送り、受け取った手紙でそれぞれの何かが変わっていく。人生が新しい方向に動き出す。そんな「いい話だな」と思える物語です。
こんな郵便局、あったらいいな。

「恋するハンバーグ」

恋するハンバーグ恋するハンバーグ
佃はじめ食堂
山口恵以子
角川春樹事務所

 東京下町佃島にあるシェフ:孝蔵と一子夫婦の洋食屋のおはなし。一流ホテルの厨房から独立して格好良く腕も立つ孝蔵と美人で人柄も良い一子、周囲の温かい人たちとお客様がかかわって、おいしくて愛される庶民的な洋食屋に育っていきます。駄菓子屋・ウルトラマン・国鉄のスト・ブルーコメッツ・大鵬・大阪万博、なつかしい昭和が次々と登場するのも嬉しい。
知らなかったのですが、これは「食堂のおばちゃん」シリーズの2作目。シリーズの作品を続けて読んでみようと思います。

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「熱源」

熱源熱源
川越宗一
文藝春秋

 今年の直木賞作です。 サハリン島(樺太)の先住民アイヌの人たちを中心とした物語。先住民のものだった土地(島)が日本の支配を受けたりロシアのものになったり、日露戦争の結果日ロで折半したり、そしてまた日本の敗戦でロシアの支配下になったりと大国の間で翻弄される。支配する側の文化が高いとされてその文化を先住民に押しつけ土地を取り上げていく、そんな理不尽さや先住民と言われる人たちの悲しさが綴られていきます。

先日、台湾の先住民族がやはり日本や中国の支配を受けるようになっていく映画「セデック・バレ」をみました。以前には「ダンス・ウィズ・ウルブズ」という映画がありましたが、ここでもアメリカの先住民が移住してきた白人に土地を追われていく様が描かれていました。「リトル・トリー」という小説もありましたね。かつて西部劇を見て白人が正義、先住民が悪のような表現を何も考えずに見ていましたが、征服される側から見た征服者の理不尽な論理を伝えるのがこれらの作品の共通のテーマ。この「熱源」も読みごたえがありました。

「年とったばあやのお話かご」

年とったばあやのおはなしかご年とったばあやのお話かご
ファージョン作
石井桃子訳

 年とったばあやが3歳・5歳・7歳の4人の子に寝室で繕い物をしながらお話をしてくれます。ばあやが以前面倒をみてあげた子どものお話。時には何百年も前の物語の中の人物の子守りであったり、歴史上の人物の子守りであったり。この婆やの年齢はいったいいくつなんでしょうか?こんなばあやが子どもにするほら吹き話、石井桃子さんの名訳で楽しく読めます。

「甘夏とオリオン」

甘夏とオリオン甘夏とオリオン
増山 実
角川書店

 主人公:甘夏は夏之介門下の駆け出し女性落語家。師匠の突然の失踪にも兄弟子二人とともに噺家の家を守っていくことに。下宿している銭湯で師匠を待つ深夜の寄席がはじまります。師匠と同門の噺家の協力で三人の落語も成長の気配。でもこの本では完結していない感じ、続編が出るのでしょうね、きっと。

「合言葉は手ぶくろの片っぽ」

合言葉は手ぶくろの片っぽ合言葉は手ぶくろの片っぽ
乙骨淑子 作
浅野竹二 画

 神戸港を出港しカナダを目指す貨物船ぺがさす丸に乗り込む若者二人、一人はコックの洋一、そしてもう一人は新入り船員の六平。出港して間もなく密航の若者一人の一匹の犬が出現。主人公の二人を含む若い船員数人がこの一人と一匹の密航を助ける物語。密航がばれないかとハラハラしたり、台風の大嵐の中の航海があったり、スリル満点の物語です。

ゲド戦記の名訳で有名な清水真砂子さんが推奨する乙骨さんの作品です。

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タスキメシ-箱根-

タスキメシ箱根「タスキメシ-箱根-」
額賀 澪
小学館

 以前読んだ「タスキメシ」の続編です。
学生時代に故障で箱根駅伝への出場がかなわなかった主人公:早馬が病院での調理師の職を辞して、スポーツ栄養学を学ぶため紫峰大学の大学院に入学する。箱根駅伝を夢見ながらまだ出場がかなわぬ駅伝部の監督の強力な勧誘を受け、駅伝部の寮に住み込み、管理栄養士兼コーチとして選手達とともに故障者にも寄り添いながら箱根駅伝出場を目指す物語。駅伝部員に出される食事メニューが話の節毎に掲げられたユニークな構成で語られていきます。
主人公の元同僚や弟などは東京オリンピックを目指してMGC(マラソン・グランド・チャンピオンシップ)に出場、そしてフィナーレでは東京オリンピックのマラソンも登場するのですが、オリンピック本番のマラソンも会場は東京。どうやら昨年のマラソン会場移転騒ぎの前に執筆されたようです。現実のことも交えてリアルさを高めた作品を目指したのでしょうが、こんなところにも移転騒ぎの影響が出てしまいました。