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「傑作はまだ」

傑作はまだ「傑作はまだ」
瀬尾まいこ
ソニー・ミュージックエンタテインメント

 瀬尾まいこさんの作品、今年本屋対象を受賞した「そしてバトンは渡された」では次々と変わる血のつながりのない親に育てられ、でもそこにあたたかいものが流れているような作品でした。その前には「春、戻る」で和菓子屋に嫁入りが決まっているヒロインの下に血の繋がらない、しかも年下の「お兄ちゃん」が現れ、過去に心の傷をもったヒロインの心を温め後押ししてくれるような小説がありました。今度の作品はそこそこ売れている小説家、一人暮らしで社会とのつながりをほとんど持たずに小説を書き続けている主人公、そこに突然実の息子が「はじめまして!」と登場する。そんな不思議なおはなしに「またこのパターンかよ!」と思ってしまう始まりでした。そんな気持ちで読み始めた作品ですが、引き込まれてしまいました。「あり得ない」感も強かったのですが最後にはほんのり「よかったね。」と思えるようなおはなし、さすが瀬尾まいこさんです。

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「サイド・トラック」

サイド・トラック

「サイド・トラック」
-走るのがニガテなぼくのランニング日記-
ダイアナ・ハーモン・アシャー作
武富博子訳
評論社

 今年の中学生向け夏休み課題図書の一冊です。
発達障害のひとつ:ADD(注意欠陥障害)を抱えている主人公:ジョセフはアメリカの中学2年生、T先生に勧められて陸上部に入りクロスカントリーを始めます。通級指導教室という障害をもった子達が学ぶ教室があったり、部活動のあり方が日本と大分違うことも感じます(その種目に優れている子が集まるわけではないらしい)。障害を持っている子に対しての偏見やいじめがあり、そして応援してくれる友だちや先生なども登場し、学校の仕組みは違っても私たちの日本の環境に置き換えて主人公になりきって読む事ができます。普段の生活にも、そして与えられた距離を走り切るにも障害がある事を読んでいる私たちが理解していきます。私たちにも発達障害というものを学習する機会は多くありますが、この小説では障害を持っている主人公になりきって見つめていくことで、知識ではなくこうした子どもたちを支援する心を養ってくれる本だなと感じました。

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「ノーサイド・ゲーム」

ノーサイド・ゲーム「ノーサイド・ゲーム」
池井戸潤
ダイヤモンド社

 今、このドラマが放映中ですね。

会社の中枢にいた主人公が社の上司の方針に異を唱えたために左遷され、工場の総務部長兼社会人ラグビーチームのゼネラルマネージャーを命じられる。社にとっては大赤字のお荷物でしかも成績は低迷、廃部の危機にあるこのチームを、地域密着型にしてファンを開拓し、新監督を招聘・チームの強化など次々と新しい方針を打ち出し困難を克服していく主人公のマネージメント、読んでいて痛快です。

「居酒屋ぼったくり」

「居酒屋ぼったくり」
秋川滝美
アルファポリス

 写真を撮らずに返却してしまいました。
若い店主:美音(みね)が亡くなった父の後を継いだ居酒屋の名は「ぼったくり」。父は「誰でも買えるような酒や、どこの家庭でもでてくるような料理で金を取るうちの店は、もうそれだけでぼったくり」と呟いていたら常連客が「それならいっそ店名を『ぼったくり』にしてしまえ。」とついた名前。でもこの店名に反して出される料理も酒もおいしくて料金は良心的。常連客が集い、人情味あふれる小さな話が料理と共に出されてくる。ふらりとやってきた新しい男客も度々訪れるようになってきて、これから主人公との関係も気になります。すでにシリーズは10作ほどになっているようで、2作目以降も続けて読んでみようと思います。

「新章 神様のカルテ」

新章・神様のカルテ「新章 神様のカルテ」
夏川草介
小学館

 前作「神様のカルテ」シリーズの最後は主人公:一止が大学病院に戻ることを決意したところで終わっていましたが、今回はその続きで大学病院編といったところ。

大学病院での一止の立場は院生、安い報酬で診療・手術・地方病院への出張医療をこなし、その間に医学的な実験・論文書きと超過密スケジュール。高度医療を行ないながら地域医療を支える中核病院としての使命と、ベッド数の制約等現実との矛盾をかかえながらも人間味豊かな一止と彼をとりまく医師・看護師たちの奮闘が語られます。障害を持った一児の父となっての愛妻との家庭生活、おんぼろアパート御岳荘の存続をかけた住人達とのやりとり、そして多くの個性豊かな登場人物を一止がつけたユニークなあだ名で語っていくのも面白い。重い膵ガン患者の強い意志に寄り添って独断で行う治療、そして最後はちょっと嬉しいどんでん返し。この本もお薦めですよ。

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「宮廷女官 チャングムの誓い」

チャングムの誓い「宮廷女官 チャングムの誓い」
ユ・ミンジュ著
秋那訳
竹書房

 非業の死を遂げた両親をもつチャングムが宮廷女官となり料理の世界を目指す、でもそこは陰謀が渦巻く世界。
何年か前にやっていたテレビドラマ、その原作本と思いきや、ドラマをもとにして書いた作品なのだそうです。そういう書かれ方もあるんですね。訳者あとがきによるとこのドラマの最高視聴率は57.8%を記録したとのこと、驚異的な数字です。私もドラマを見ていましたがでも途中から、主人公の生い立ちは知らなかったので改めて興味深く読みはじめました。はらはらどきどきさせながらも苦難を乗り越えていく物語、おもしろかった。

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「トンイ」

トンイ

トンイ(上・下)
キム・イヨン チョン・ジェイン
キネマ旬報社

 毎週楽しみに見ている韓国ドラマ「オクニョ」が終局をむかえようとしています。そういえば以前「トンイ」というドラマをやってたよなと思い出し、読んでみることにしました。
賤民の出ながら王室に入り王の母となるまでのトンイの波乱の一生、読了までその世界に没頭させてくれる作品でした。

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「チルドレン」

チルドレン

「チルドレン」
伊坂幸太郎
講談社

 閉店間際の銀行に入った二人が銀行強盗事件に巻き込まれ、数人の客・銀行員とともに拘束されてしまうところから話が始まる。主人公・陣内をとりまく人たちがそれぞれ主人公を語っていくとう面白いスタイルのミニストーリー集、破天荒なようで愛すべき主人公の人物像が次第に描き出されていきます。
語り手の一人・全盲の永瀬にどこかのおばさんが「これ使って」と5000円をくれた。そんなことに「何でお前だけなんだよ」と怒って全盲の人にも普通に接する陣内の人物像、私も好きになりました。

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「迷子の天使」

迷子の天使「迷子の天使」
石井桃子 作
脇田 和 画

 ネコ好きで沢山のネコを引き受けてしまう念海さんのおくさんを中心に、念海家の家族・お隣のお金持ち団野さん一家などが登場し、飾らない文章でどこにでもありそうな家族の雰囲気を醸し出しています。
1986年発行の本ですが、1958年から新聞に連載された小説。戦後間もない頃の時代背景も色濃く残しています。石井さんの作品「山のトムさん」はネコが主人公のよい味わいの作品でしたがここでも愛すべきネコが登場、石井さん自身が相当なネコ好きだったんでしょうね。

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「あきない世傳金と銀6」

あきない世傳金と銀6

あきない世傳金と銀6
本流編
髙田 郁
角川春樹事務所

 シリーズ6作目。半年ごとに1冊づつ発表されてきたのですが、今回は間に「みをつくし料理帖」の番外編の発表があったために1年ぶりの続編登場です。お陰で前作の内容を忘れてしまった。智蔵さんは亡くなってしまっていたんですね、物語はそこからです。

五鈴屋はいよいよ江戸進出へ向けて本格的に動き出します。華々しく進出するのでなく「小さく生んで大きく育てる」、そして「買うての幸い、売っての幸せ」のために2年の準備期間と、さらに主人公:幸が江戸に移り住んでからも開店に向けて半年以上、その準備の話に惹き込まれます。これから江戸店がどう育っていくのか、楽しみです。

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