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「嵯峨野花譜」

嵯峨野花譜嵯峨野花譜
葉室 麟
文藝春秋

少年僧:胤舜は大覚寺花務職:広甫の弟子。若年ながら兄弟子達にも活花の才では一目置かれている。父・母と一緒に暮らせぬ宿命をを負った少年僧が、降りかかる難題を活花をとおして乗り越えてゆくおはなし。華道の世界を映像でなく文章で美しく表現しているなと思いました。
胤舜という名前はたしか「宮本武蔵」にも出てきましたよね。奈良の棒術の達人僧でした。「どうして同じ名前を使ったんだろう?」なんて考えてしまいます。
武家の世界を描くことが多かった葉室作品ですが、一つ新しい世界を開いたのでしょうか。章ごとの小見出しを飾るモノクロで描かれた花のページもまたいいなと思いました。

「静かな雨」

静かな雨

「静かな雨」
宮下奈都
文藝春秋

勤務先が整理されることになり、暗いおはなしの滑り出し。でもその帰りにパチンコ屋の駐車乗で発見した屋台のたい焼きやさん、感じのいい女の子のお店でたいやきがまたおいしい。

 再就職が決まり、たい焼きやさんにも通うようになり、その女の子との距離も縮まってきたと思うころ、女の子は事故にまきこまれてしまう。病院で眠り続ける女の子を見舞いに通う主人公、・・・・。

 なかなかいいおはなしでした。

「空飛ぶタイヤ」

空飛ぶタイヤ「空飛ぶタイヤ」
池井戸 潤
実業之日本社

走行中の赤松運送のトラックの車輪が外れて母子連れを直撃し、母親は死亡という事故が起きた。メーカーの赤松運送の整備不良が原因との調査結果で警察の家宅捜索を受けるが、家宅捜索では赤松運送の落ち度は発見されない。顧客は離れ、被害者からも訴えられる。メインバンクからの冷遇、社長:赤松の子どもたちもまたいじめを受けるなど仕事も家庭も窮地に立たされる中で、構造的欠陥を疑い赤松は独自に調査を始める。

大企業の横暴に中小企業が立ち向かう構図、財閥系の数年前にリコール隠しが発覚しているホープ自動車、親会社のホープ重工、東京ホープ銀行等々現実にある社会構図を取り込んでいてまた面白い。そして最後はスカッと終わってくれる池井戸作品、今回も楽しみました。

「羊と鋼の森」

羊と鋼の森「羊と鋼の森」
宮下 捺都
文藝春秋

主人公は高校生の時たまたま先生に頼まれて、体育館のピアノに調律師さんを案内をすることに。初めてみる調律の世界に惹かれて調律師の道にすすむことになる。

純正調、平均律なんて言葉を度々耳にしてきた私には我が家に来る調律師さんの作業にも興味津々です。そんな私もピアノの調律は音の高さを整えるだけの作業と思っていたのですが、それだけではない奥深い世界のようです。ピアニストとともに音楽を作り上げていく人のように思えてきました。

調律時にあらわになるピアノの内部、きれいに並んだ木製のハンマー、ハンマーの先端に付いているフェルト、鋼製の弦、弦を支え調整するために林立するピン、そしてそこから流れ出る響きの世界、そんな世界を「羊と鋼の森」と名付けたようです。

昨年の本屋大賞作品、ピアノの世界がいいなと思える一冊です。

「車夫2」

車夫2車夫2 幸せのかっぱ
いとうみく
小峰書店

以前紹介した「車夫」の続編です。主人公の吉瀬走は浅草の「力車屋」で働く若者。走だけでなく他の車夫、客、走の在学時の仲間などが作品の章ごとに主役となりながらそれぞれの心模様・人間模様を描きつつ、主人公:走を描いていく。

後半では母親のこともちらちらとかすめて来ます。走と母親、これからどうなるのかな?続々編に期待です。

この作品も、好きだな。

「さぶ」

さぶ

さぶ
山本周五郎
新潮文庫

 江戸の経師屋で働く同い年の栄二とさぶ、腕のたつ職人に育ってきている栄二と不器用だが愚直にのりをつくるさぶはいつか一緒に店を持とうと夢見ている。しかし栄二は無実の罪におとしめられて石川島の人足寄場に送られる。そこは世間では器用には生きられない人たちの生活の場。栄二とさぶの友情、栄二を心配するおすえとおのぶ、人足寄場の人たちとの交流で栄二の復讐心も次第に洗われていく。そんなきれいな心を描いた作品。
江戸にもこういう社会復帰を目指すような更生施設があったんですね。
ストーリーにぐいぐいと引き込まれての一気読みでした。これから周五郎ファンになろうかな。

「江戸を造った男」

江戸を造った男江戸を造った男
伊東 潤
朝日新聞出版

図書館で薦めていただいた本です、歴史上の人物:河村七米兵衛(瑞賢)の物語。商人でありながら江戸時代初期の土木工事に携わり数々の成果をおさめた人。江戸大火のあと木曽から木材を大量に買い付けて商人としての基盤を築き、その後幕府の命もあって東北の米を運ぶ水運、水田用の大規模な水路の建設、大阪の大河の氾濫予防の工事、新潟の銀山開発等々次々と大事業を成し遂げた人物、知らなかった。

一気読みできるおもしろさ、でも他のものも並行して読んで中途半端な読み方をしてしまいました。

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「三屋清左右衛門残日録」

三屋清左右衛門残日録三屋清左右衛門残日録
藤沢周平
文藝春秋

 

藩の要職を務めていた三屋清左右衛門がその職から身を引き、家督も息子に譲ってゆったりとした日々が始まる。一切の雑事から解放されたが、そのあとに寂寥感がやってくる。そんな江戸時代の武士の姿が現代の仕事をリタイヤした後にやってくる虚脱感や疎外感とまったく重なってくる。藩の派閥争いも見えてくるのだが、不穏な空気にも隠居の身でちょっと距離を置いていられる気楽さが漂い、主人公をとりまく事件なども安心して読み進め楽しめる小説。一冊で終わってしまうのがちょっと寂しいかな。

 

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「藤沢周平のこころ」

藤沢周平のこころ文春ムック
「藤沢周平のこころ」
オール讀物責任編集
文藝春秋

 

藤沢周平没後20年を記念して編集された本。多くの作家や直木賞の選考委員、藤沢氏の娘さんなどが登場して、それぞれの藤沢作品への思いや藤沢氏の人物像などを語っています。私も藤沢作品が好きで多くの作品を読んでいるつもりではいたのですが、私が読んでいるのはほんの一部。この本に登場する多くの方が藤沢作品を感受性豊かに語っているのを目にすると、また藤沢作品を読みたくなります。これから、話題として登場する作品を書き出して読んでみようと思います。改めて、多くのものを感じられるかな。

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「風のヒルクライム」

風のヒルクライム風のヒルクライム
ぼくらの自転車ロードレース
加部鈴子
岩崎書店

13歳の誕生日に父からロードバイクをプレゼントされた涼太。経験も少ないまま笠城山クライムレースにのぞむ。父は医者で単身赴任、父への複雑な思いもいだきつつ父子での参加。でも、父は早々に先に行ってしまう。ロードレースに打ち込んでいる同級生、かつて父の下で入院していた女子中学生、ママチャリで参加の高校生、さらにはボランティアまで含めていろいろな人物からこのヒルクライムレースを描きだします。

細いタイヤのロードバイクを目にすることも多くなりました。そんな愛好者の増加がこの小説誕生のもとになっているのでしょうか。「笠城山クライムレース」そんな名前のレースが本当にあるのかなと思ってネットで検索してみると、「まえばし赤城山ヒルクライム」このあたりから名前をとってきたのかな。今は何とたくさんのクライムレースがあるのでしょうか。中にはHCS韮崎甘利山なんていう私たちのすぐ近くの大会もあったんですね。