カテゴリー別アーカイブ:

「喜知次」

喜知次「喜知次」
乙川優三郎
講談社

 小太郎は祐筆頭を務める日野家の長子、日野家に養女花哉がやってきて小太郎には妹ができる。藩の学問所:知明館で共に学ぶ牛尾台介・鈴木猪平は身分・境遇の違いはありながらも気心知れた友。猪平の父が一揆によって命を落とし藩の苛酷な処遇で猪平母子は苦境に落とされる。郡奉行の次男坊の台介は剣の腕はたつが将来はどこかの婿にはいるか部屋済みで終わる身分、それよりもゆくゆくは商人になるという。大人の世界を一歩先に行く二人に触発され、元服前の小太郎はおぼろげながらも藩の農政改革を志していく。そんな三人の苦悩の中でも続く友情の物語。そして小太郎と花哉との関係は・・・・?

(334.3k)

「エピクロスの処方箋」

エピクロスの処方箋「エピクロスの処方箋」
夏川草介
水鈴社

 雄町哲郎は内視鏡手術で並外れた技術を持ち洛都大学病院で将来を嘱望されながら亡き妹の遺児龍之介を引き取り育てるため、それまでのキャリアを捨てて大学医局を退局し、今は街中の小規模な原田病院で「マチ先生」呼ばれ親しまれている。時には大学病院から押し付けられたような難患者の手術に卓越した力を見せることもあるが、外来診療・訪問診療そして入院患者の診療に忙しい日々を送っている。大学病院で活躍する先輩医師で准教授の花垣、彼から派遣された若き女性研修医:南茉莉、同僚医師の秋鹿淳之介・中将亜矢、更には医局を退局する際に怒らせてしまった飛良泉教授等々と織りなす人間模様が面白い。そして何より「マチ先生」の人間味あふれる医師振りが魅力的です。妻を看取った頑固者のレストランの主人の「マチ先生」への感謝のシーンなどじんわりとしていまいます。「スピノザの診察室」に続くシリーズ2作目ですがこのシリーズ、まだまだ続いて欲しいな。

(333.0k)

「テミスの不確かな法廷」

テミスの不確かな法廷「テミスの不確かな法廷」
直島翔
角川文庫

 今年初めにNHKで放送されたドラマの原作。
安藤清治は任官7年目の裁判官で現在は本州最西端のY県に赴任して半年。自身が人の気持ちを読み取るのが苦手な自閉スペクトラム症(ASD)をかかえているが、それをハングアウトすることなく仕事を続けている。公判中に文字にこだわりを持って思考が飛んでしまったり、むずむずやそわそわがおとずれたり、様々なASDの特性が安藤を苦しめるが、「風変わりな人」と見られながらも独自の視点と判断で数々の訴訟をさばいていくストーリーで快い読後感。物語の最後には若い女性弁護士に惹かれていく安藤、続編にも期待してしまう。

(332.4k)

「あたらしい憲法のはなし」

Image1

「あたらしい憲法のはなし」
文部省
日本平和委員会

 所属する「八ヶ岳歩こう会」で企画するウォーキングのスタート地点すぐ近くに志高い個人により「憲法九条の碑」が建てられている。「せっかくの機会だから」と、この度これをコースに入れ建立者のお話を聞かせていただくことになった。そしてこの方から頂いたのがこの小冊子。戦争直後の1946年発布、翌年施工された日本国憲法について、発布の十カ月後の2947年8月に文部省により発行され全国の中学生が一年生の教科書として学んだものの復刻版のようです。主権が国民にあり、平和主義や三権分立など民主国家として新たに踏み出す国のあり方を子どもたちにやさしく説いていく内容で、この冊子を編集した方々自身がこの新しい憲法に喜びを感じ子どもたちに熱く語りかけているなと感じました。
ただ、象徴天皇の内容については編者自身に旧来の教えが色濃く残っているようにも思いました。

(299.8k)

「生きる」

生きる

「生きる」
乙川優三郎
文藝春秋

 関ケ原の戦いで敗軍となり浪人となった父が北国の地で食禄を得、以来石田家は藩主飛騨守の恩顧に報いるべく又右衛門もまた忠勤に励み家を大きくしてきた。しかし二年ほど病臥している藩主が身まかった折りには、寵臣の一人として殉死して忠義と悲しみを形に表さなければならぬと思っていた。そんな折り梶谷筆頭家老から呼び出しがあり、追い腹禁止令を出すこと、そして小野寺・石田二人の寵臣はそれを守ることを誓約をさせられる。
やがて藩主が身まかったが禁を犯しても追い腹を切る者が続出、禁を守る誓約した二人も周囲の冷たい目に徐々に追い詰められていく。主人公の苦悩が読者にも迫ってくる作品。
他二作が収録されており、いずれも秀作です。「生きる」は直木賞受賞作。

(294.0k)

「おはようおかえり」

おはようおかえり

おはようおかえり
近藤史恵
PHP

 小梅は大阪の和菓子屋「凍滝」の長女、母とともに店を商いゆくゆくは店を継ぐことになるのかと考えている。妹つぐみは対照的に奔放な生き方をしそうな大学生、今は演劇に打ち込んでおりエジプトへの留学も考えている。そんな妹にある日曾祖母の霊が乗り移り、妹がやったこともないきんつばを次々と焼き上げる。そんな曾祖母の霊の妹への乗り移りがたびたび起こり、霊の願いは曾祖父の愛人に出した手紙を取り返すことであると知る。その願いに応えようと姉妹二人が活躍する。怖い話ではなく、若い二人が曾祖母の心とつながっていくおはなしが面白い。

(291.8k)

「また、必ず会おう」と誰もが言った

「また会おう」と誰もが言った「また、必ず会おう」と誰もが言った
喜多川泰
サンマーク出版

 17歳の熊本の高校生秋月和也、クラスメートの前で行ったこともないディズニーランドに「行ったことがある」と見栄をはってしまったがために、その証拠作りに親にも内緒でディズニーランドに単独行。しかし渋滞に巻き込まれ帰りの飛行機に乗り遅れ所持金はわずかで途方に暮れる。そんな和也を見かねた空港の土産物売り場のおばさんに助けられ「人間として成長するチャンス」と励まされ、自力で熊本へ帰る奮戦記。多くの人に巡り会い助けられ成長していく物語、おもしろかった。

(290.4k)

「いただきます」

いただきますいただきます
喜多川泰
ディスカヴァー・トゥエンディワン

 商業高校を卒業して間もない主人公:成瀬翔馬、楽して稼げる仕事を探してバイト先を転々とし、大学守衛所の仕事につく。この仕事を去っていく先輩の「もっと楽して実入りのいいバイト、紹介しようか?」のことばにも気持ちが動く。人の出入りの少なくない大学の正門で誰一人として翔馬たちのことを気にする人はいない。誰でもできる仕事、誰がやっても同じだと思っていた仕事。だがていねいに挨拶してくれる男子学生が一人、そして一人にこやかに挨拶してくれる女子学生も現れる。一緒に守衛として働く人生の大先輩たちの仕事ぶり、考え、経歴などを知るにしたがって翔馬の考えも変わっていく。翔馬の「俺、誰でもできる仕事がしたいんじゃないんすよ。俺にしかできないことを探しているんすよ」に、「誰でもできる仕事が一番、誰がやるかで差が出る」なんていう先輩のことば、印象的です。

(290.0k)

「修羅の宴」

「修羅の宴」
楡 周平
講談社

 滝本哲夫は都市銀行のひとつ「いずみ銀行」でその実績が認められた高卒の入行組の雄で、異例ともいえる出世の取締役から日本最大の繊維専門商社浪花物産の経営立て直しを任せられ、ここでもその期待に応えていく。しかし経営が持ち直せばこのポジションは大卒者に奪われ次々と新たな仕事へと使い回されるという高卒者の宿命。だがそんなふうに使い捨てられるのを恐れ、滝本は現在の一国一城の主の地位を守ろうと様々な画策に走る。自らの堅固な城を築けるのか、それとも・・・・?

(271.2k)

「だから荒野」

「だから荒野」
桐野夏生
毎日新聞社

 はじめて読む桐野作品。
夫浩光と大学生の健太・高校生の優太の4人家族の主婦で42歳になった森村朋子は楽しみにしていた誕生日の家族での食事に出かけたが、家族とりわけ浩光の日常と変わらぬ心無い振る舞いやことばにやりきれなくなり食事の途中レストランから一人マイカーで出奔、一人で生きていく決意を固める。車中にあった浩光のゴルフセットを金に換え、マイカーで長崎を目指して西に向かう。
朋美が出会う様々な人・事件と残された浩光たち家族の模様を描いていく面白いストーリー、これも一気読みでした。

(254.3k)