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「風のヒルクライム」

風のヒルクライム風のヒルクライム
ぼくらの自転車ロードレース
加部鈴子
岩崎書店

13歳の誕生日に父からロードバイクをプレゼントされた涼太。経験も少ないまま笠城山クライムレースにのぞむ。父は医者で単身赴任、父への複雑な思いもいだきつつ父子での参加。でも、父は早々に先に行ってしまう。ロードレースに打ち込んでいる同級生、かつて父の下で入院していた女子中学生、ママチャリで参加の高校生、さらにはボランティアまで含めていろいろな人物からこのヒルクライムレースを描きだします。

細いタイヤのロードバイクを目にすることも多くなりました。そんな愛好者の増加がこの小説誕生のもとになっているのでしょうか。「笠城山クライムレース」そんな名前のレースが本当にあるのかなと思ってネットで検索してみると、「まえばし赤城山ヒルクライム」このあたりから名前をとってきたのかな。今は何とたくさんのクライムレースがあるのでしょうか。中にはHCS韮崎甘利山なんていう私たちのすぐ近くの大会もあったんですね。

「車夫」

車夫車夫
いとうみく
小峰書店

陸上、走ることに長のある高校生の吉瀬走は父が事業に失敗して失踪、やがて母も家出してしまい一人残される。高校も経済的に行き詰まって自主退学。そんな走が陸上部の先輩から人力車夫の仕事に誘われてその世界へ。客・先輩・顧問の先生・親方の奥さんと様々の人の目で主人公:走を描いてゆく。多くの人が不遇の主人公を思いやり、走が車夫として成長していく温かい小説です。

浅草に行くと人力車が走っているのを私も目にしていましたが、この本を読んでいると「乗ってみたいな」という気持ちも湧いてきます。

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「その時までサヨナラ」

その時までサヨナラ

その時までサヨナラ
山田悠介
文芸社

 仕事人間の悟、仕事ではやり手だが家庭を顧みない。不和は深まり妻は幼い息子:裕太を連れて家出、離婚も時間の問題となっていた。が、妻は地震に伴う電車事故に遭い子を残して亡くなってしまう。我が子に全く興味を持てない悟は裕太を亡き妻の両親に託そうと考えていたが、妻の親友:宮前春子という女性が現れる。仕事に失敗した悟が家庭では徐々に宮前春子のペースに、子供に目を向けるように変わっていく。読み終わるとちょっと幸福感かな。

「あおなり道場始末」

あおなあり道場始末あおなり道場始末
葉室 麟
双葉社

豊後・坪内藩の神妙活殺流青鳴道場、先代の死で残された三兄妹弟(きょうだい)の権平・千草・勘六。細る一方の道場には弟子が一人もいなくなってしまう。追い詰められた3人は食いつなぐため、そして父の死の真相を探るため、藩内にある他道場への道場破りをはじめる。先代から伝授された奥義<神妙活殺>は権平にとってはまだ不確かな技だが、これを駆使しながら徐々に父の死の闇に迫っていく。

軽くて痛快な時代小説といったところで、これまで読んだ葉室作品とはちょっと趣が違うなという印象でした。

 

「さらわれたデービッド」

さらわれたデービッドさらわれたデービッド
R.L.スティーブンソン
坂井晴彦 訳
寺島龍一 画
福音館書店

福音館古典童話シリーズの一冊。久しぶりの古典で、あの有名な「宝島」と同じ作者・訳者・画家の作品です。

舞台は現在のイギリス北部、スコットランド。両親を失ったデービットは唯一の身寄りである叔父の下を訪れますが、後ろ盾となってくれるどころか、叔父に騙されて帆船に乗せられ国外に売り飛ばされる身の上になってしまう。しかしその帆船が難破し遭難、スコットランド西部の小島に漂着。船で一緒になりともに指名手配者となってしまったアランとともに陸路を逃避行、故郷を目指すという物語。主人公の周囲はめまぐるしく移り変わり、先へ先へと読み進めてしまうストーリーでした。でも結末はちょっと消化不良の感じです。せっかくの面白いストーリーがもったいないなと思ってしまいました。

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「おい!山田」

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安藤祐介
講談社

大翔製菓の広報宣伝部に自身がサラリーマン姿のまま「ゆるきゃら 山田」となるよう命じられ異動してきた主人公:山田助(たすく)、そしてもう一人の主人公は「ゆるきゃら 山田」プロジェクトのプロデュースを命じられた広報宣伝部の水嶋里美。はなしは二人の視点で交互に語られていきます。

すべてに前向きに考え行動する山田に、プロジェクトに否定的で冷淡だった周囲の人たちを巻き込んでゆく。プロジェクト失敗の断を下されるも、やがて部署を超えた若者達による極秘の新しい企画が・・・・。
セクト主義・功名主義で旧態然とした社内で、若者の社員として成長しながらを企画を育ててゆくというストーリー、主人公二人の仲もちょっと気になる楽しい小説でした。

「しゃべれどもしゃべれども」

しゃべれどもしゃべれども
佐藤多佳子
新潮文庫

 主人公は落語家お今昔亭三つ葉、小三文師匠の内弟子に入って21歳で二つ目昇進、それから5年の26歳です。師匠の弟弟子は時代をつかんだ売れっ子だが、古典落語の名人的な存在のこの師匠に師事して古典落語にこだわっている。でも話すたびに面白くなくなっていくという行き詰まりを感じている。

そんな三つ葉にどもりをもったテニススクールのコーチ、会話が苦手な若い女性、関西から越してきて級友になじめずいじめ(?)を受けている小学生、解説の仕事が思うようにいかない現役を引退したプロ野球選手、と話すことに不安をもっている4人がそれぞれの悩みをなんとか打開しようと三つ葉に落語を習い始める。

主人公の心の動きも面白いし、そのメンバーみんなで小学生を心配している姿にどなんとも温かいものを感じる小説です。4人が覚えるの噺は「饅頭こわい」、これからこの小説を読もうとする人は一度この落語を聴いておいた方がいいかもしれません。

「春、戻る」

%e6%98%a5%e3%80%81%e6%88%bb%e3%82%8b春、戻る
瀬尾まいこ
集英社

 和菓子屋に嫁ぐことが決まっているさくらに突然、年齢は一回り下の「兄」という人物が現れる。無視しようとしても心の中に入ってきてしまうようなこの「兄」がさくらに、そして嫁ぎ先の春日庵に、婚約者にと関わり馴染んでいってしまうという不思議な展開。花嫁修業に通っている料理教室ではダメだと、この「兄」が料理教室まではじめる。

そんな関わりの中でさくらの封印した過去の記憶が溶け始め・・・・。

風変わりな「兄」が結婚を控えた主人公により深い幸せを運んできてくれるような物語、いいおはなしでした。

「おしまいのデート」

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瀬尾まいこ
集英社

 図書館の司書の方と「戸村飯店 青春100連発」の話題となったとき、同じ瀬尾まいこさんの「おしまいのデート」がよかったとうかがって読むことにしました。この図書課にはなく図書館ネットワークで取り寄せていただき、他館への返却の都合で返却日厳守とのこと。「これははやく読まなくては。」と。

内容は短編5編、いずれもデートがテーマのものでしたが単なる若い男女のデートというのではなく、祖父と孫、老教師と教え子、同じクラスの男子高校生二人、捨て犬を介したOLと大学生、保育士と園児とその父親とさまざま。ほんのりとした味わいの小品集であっという間に読み終えてしまいました。私としてはこの表紙に描かれた天丼が登場する作品がいちばんだったかな。

「陸王」

%e9%99%b8%e7%8e%8b陸王
池井戸 潤
集英社

 久しぶりの池井戸潤作品です、今年7月発売の最新作。今回は足袋製造会社「こはぜ屋」の物語です。日本伝統の製品とはいえ需要はじり貧のこの産業、手堅く経営しても先が見えている。そこで挑戦を始めたのが足袋の技術を生かした素足感覚のランニングシューズ「陸王」。こはぜ屋がサポートする故障から立ち直るエリートランナー、それを支えるシューフィッター(シューズアドバイザー)、新しい素材の特許をもつ倒産男と何人ものドラマを織り込んで、「下町ロケット」同様に資金面での経営難・倒産と紙一重のところを踏ん張り続けて光明を見いだしていく池井戸作品、一気読みでした。