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「それでも旅に出るカフェ」

それでも旅に出るカフェ

「それでも旅に出るカフェ」
近藤史恵
双葉社

 前作「ときどき旅に出るカフェ」の続編です。

コロナ禍でテレワークとなり何かと不自由さと憂鬱を感じている一人暮らしの奈良映子。気に入りの店「カフェ・ルーズ」も今は閉店している。この店は映子のかつての同僚:円(まどか)のひらいたお店、自ら旅して世界各地の土地に根ざしたスウィーツやドリンクを再現してメニューに加えている。その円とも親しくなっていたのだが音信不通状態。 そんな時、珍しいスウィーツを購入したお店で円がキッチンカーでの移動販売と焼き菓子の通販をしていることを知る。彼女との再会、そして「カフェ・ルーズ」もまた営業を再開する。

美味しいスウィーツで来客それぞれの悩みに寄り添うようにもてなすお店が静かな人気になっている様を読みながら感じられる。店主円をそっと応援している映子、そしてお店をやっていく上での円の芯の強さも魅力です。

「水車小屋のネネ」

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「水車小屋のネネ」
津村記久子
毎日新聞出版

 母親の再婚にともない、内定していた服飾の短大への進学を諦めざるを得なくなった姉:理佐(18歳)とネグレクトのような状況の妹:律(8歳)。家を出て姉が働いて独り立ちし妹を育て、二人で成長していく物語。就いたのは蕎麦屋さんのホールでの仕事と水車小屋でそば粉を挽く仕事。水車小屋には人間と会話ができるヨウムのネネがいてそば打ちに欠かせない役割を担っている。姉妹と蕎麦屋さん夫婦、老女性画家、律の同級生とそのお父さんなど多くの人がネネの世話をし、ネネ自身も人と関わり共に生きていくのが心を暖かくしてくれるような小説です。
オウムのようにただ人間の真似をするだけでなく、ある程度の思考能力があるようなネネが愛らしく描かれていますが、調べてみると実際にヨウムという鳥は知恵もあり長命で、お話の中でのヨウムの賢さは嘘ではないようです。本屋大賞候補作。

「夜空にひらく」

夜空にひらく

「夜空にひらく」
いとうみく
アリス館

 母に捨てられ祖母に育てられた17歳の鳴海円人。アルバイト先のコンビニで窃盗事件の濡れ衣を着せられ、はめられた相手に対して暴力事件を起こし傷害罪で家庭裁判所へ送られた。家庭裁判所の審判ではさまざまな事情と家庭環境を考慮した上で試験観察という処分となり、山梨にある煙火店(花火屋さん)に預けられ試験観察の生活がはじまる。人の優しさに慣れない円人が周囲の人の温かい人たちに囲まれ徐々に心をひらいていく。じんわりとこころ温まる物語。
いとうみく作品では「車夫」に通ずるものがあるかな。「車夫」もよかったけでこれもいい。

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「となりのナースエイド」

となりのナースエイド

「となりのナースエイド」
知念実希人
角川文庫

 放送された同名ドラマの原作を読んでみました。
桜田澪は同僚3人と働く星嶺大医学部附属病院の新人ナースエイド(看護助手)。特に資格が要らないが医療行為はできない職であり、職場の医師や看護師からは軽んじられている。しかし彼女は元優秀な外科医、姉の病死をきっかけに医療行為に対してトラウマがあり、医師を辞めて患者の心に寄り添うナースエイドになったと言う経歴をもつ。同じ病院に勤める天才外科医:竜崎とはアパートが隣室で次第に接近。姉の死に他殺の疑惑が浮上し。竜崎や同僚たちと寄り添う仕事を積み重ねながら疑惑を追及していくおはなし。おもしろいストーリーです。
ドラマは原作からのアレンジも多いですね。ドラマを見た人にもおすすめ。

「手紙屋」

「手紙屋」
~僕の就職活動を変えた十通の手紙~
喜多川泰
ディスカヴァー

 主人公:西山亮太は大学4年生。出遅れた就職活動をどう始めようかという視界不良な時期に行きつけの喫茶「書楽」で見つけた貼り紙にはこんなことが。
『はじめまして、手紙屋です
手紙屋一筋十年。きっとあなたの人生のお役に立てるはずです。
私に手紙を出してください。』
そこで始まった文通は相互に十通、その内容は就職活動、内定後、さらに人生の目標などなど。主人公が手紙を通して仕事に生き方に、そして未来に目を向け成長していく姿が読んでいても嬉しい。手紙屋さんからの手紙は著者も練りに練った言葉の数々でした。そしてこのはなしの最後には手紙屋さんが登場します、意外な人物。
こんな本、学生時代に出会えたらよかったな。

「刑事何森 孤高の相貌」

刑事何森孤高の相貌「刑事何森 孤高の相貌」
丸山正樹
東京創元社

 主人公:何森稔はいくら命じられても警察組織をあげての「裏金づくり」のための偽の領収書作成を拒否して「非協力者」の烙印を押され出世の道も閉ざされた埼玉県警の刑事。捜査の現場から外されても自己のこだわりや正義感で独自捜査をすすめ事件を解決してゆく。
「灰色でなく」では本人からの自供も得られ解決したかに見えた事件も、主人公の妥協しない捜査で容疑者の冤罪を免れます。
「ロスト」では3人組銀行強盗の後事故を起こした1人の容疑者が逮捕された。容疑者は自身のことが全くわからない記憶喪失で強奪された金の行方もわからず、しかも2人の犯人は行方不明なのだが、逮捕された記憶喪失の容疑者は犯行当時は責任能力ありとの判断で有罪となり、記憶が回復しないまま7年の刑期を終え釈放。実名もわからないまま更生保護施設に移り友田と呼ばれて更生生活が始まる。その一旦終わったかに見え警察組織の中では疎外されている事件を協力者一人と黙々と追い続ける主人公に共感が湧きます。

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「シャルロットのアルバイト」


シャルロットのアルバイト
近藤史恵
光文社

 シャルロットシリーズの「シャルロットの憂鬱」につづく第2巻。池上家は夫婦と警察犬を引退した大型犬シャルロットの二人と一匹暮らし。よく躾けられて賢い愛犬との生活、他所の犬との関わりの中で遭遇する様々な問題の謎解きしていく温かいお話集6話収録です。

1作目ではシャルロットと散歩中に迷子のトイプードルに遭遇、やむなく家に連れ帰って保護する。飼い主が見つかるまで面倒を見ることになりますが、与えたドックフードは見向きもせず小型犬用のフードを用意しても同じ。ネットに載せた飼い主捜しには「譲って欲しい」など不快なメールが届いたりするものの、わがままな迷子犬まで面倒を見る主人公夫妻には感心してしまいます。
表題の「シャルロットのアルバイト」は4話目。かかりつけの動物病院で犬好きな様子の男性に声を掛けられた内容はシャルロットのアルバイト。小犬を預かって「しつけ教室」を営んでいる男性で、シャルロットに小犬の相手をして欲しいという。教室を運営する姉弟も感じのいい人で、そこで始まったアルバイトの内容にはシャルロットもお気に入りの様子。だが、教室の不穏な評判も耳にはいってくる。ここでも小犬を温かく見守るシャルロットの性格のよさをほんわりと味わいながら問題が解決していく、心地よい読後感のお話でした。

「木挽町のあだ討ち」

木挽町のあだ討ち
永井紗耶子
新潮社

 今年の直木賞作品、図書館の司書さんに薦めていただきました。
父殺しの元下男の仇討ちを誓って国を出て江戸にやってきた美少年若侍:菊之助はみごと宿願を果たして帰って行った。その国元から別の若侍が仇討ちの証人を求め舞台となった芝居小屋が建つ町:木挽町をたずねる。木戸芸者、殺陣の指南役、衣装の支度や繕いをする女形、小道具の夫婦、戯作者と仇討ちの目撃証人に仇討ちの模様だけでなく証人の周辺の事情も聞いて歩き、理不尽に仕組まれ実行に追い込まれた仇討ちの実像を徐々に露わにしていく。芝居小屋周辺の人間模様もおもしろい。

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「かもめ食堂」

かもめ食堂

「かもめ食堂」
群ようこ
幻冬舎

サチエの父は古武道の達人でその指導を受け武道もなかなかの達人。早くに母を亡くしているが、料理上手だった母の影響からか家では料理をし、食物科がある高校へすすみ、大学在学中もフレンチ、イタリアン、和食、エスニックと片っ端から料理教室に通い、やがて「素朴でいいからちゃんとした食事を食べてもらえるような店」を開きたいと考えるようになった。資金も蓄えたサチエは38歳で父の下を離れ遠くフィンランドの首都ヘルシンキの街中に「かもめ食堂」を開店させた。大きな看板も出さず宣伝もしない。来客には必ずすすめるおにぎりはフィンランド人には受け入れてもらえず、それでもやがては口伝えで客も増えていく。揺るがぬ姿勢のサチエと「かもめ食堂」を、読んでいて応援したくなります。

「お探し物は図書館まで」

お探し物は図書室まで

「お探し物は図書館まで」
青山美智子
ポプラ社

 5つの短編集で主人公は婦人服販売員、メーカー経理担当者、元雑誌編集者、ニート、定年退職者とさまざま。
地域の小学校に隣接して羽鳥コミュニティハウスがある。ここでは将棋、俳句、リトミック、健康体操、フラワーアレンジメントなど数多くの講習会やイベントが行われ、図書室も併設されている。自己の生活の変化を求めてコミュニティハウスを訪れた主人公達がこの図書室にも立ち寄ってみると、そこには大変体格が立派な司書さんが希望に沿ってリファレンス(本の紹介)をしてくれるが、同時に一見希望には縁遠いとも思える本も一冊紹介してくれる。そしてその本がそれぞれの主人公の生活や生き方に一石を投じていくという面白いおはなしです。