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「あたらしい憲法のはなし」

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「あたらしい憲法のはなし」
文部省
日本平和委員会

 所属する「八ヶ岳歩こう会」で企画するウォーキングのスタート地点すぐ近くに志高い個人により「憲法九条の碑」が建てられている。「せっかくの機会だから」と、この度これをコースに入れ建立者のお話を聞かせていただくことになった。そしてこの方から頂いたのがこの小冊子。戦争直後の1946年発布、翌年施工された日本国憲法について、発布の十カ月後の2947年8月に文部省により発行され全国の中学生が一年生の教科書として学んだものの復刻版のようです。主権が国民にあり、平和主義や三権分立など民主国家として新たに踏み出す国のあり方を子どもたちにやさしく説いていく内容で、この冊子を編集した方々自身がこの新しい憲法に喜びを感じ子どもたちに熱く語りかけているなと感じました。
ただ、象徴天皇の内容については編者自身に旧来の教えが色濃く残っているようにも思いました。

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「生きる」

生きる

「生きる」
乙川優三郎
文藝春秋

 関ケ原の戦いで敗軍となり浪人となった父が北国の地で食禄を得、以来石田家は藩主飛騨守の恩顧に報いるべく又右衛門もまた忠勤に励み家を大きくしてきた。しかし二年ほど病臥している藩主が身まかった折りには、寵臣の一人として殉死して忠義と悲しみを形に表さなければならぬと思っていた。そんな折り梶谷筆頭家老から呼び出しがあり、追い腹禁止令を出すこと、そして小野寺・石田二人の寵臣はそれを守ることを誓約をさせられる。
やがて藩主が身まかったが禁を犯しても追い腹を切る者が続出、禁を守る誓約した二人も周囲の冷たい目に徐々に追い詰められていく。主人公の苦悩が読者にも迫ってくる作品。
他二作が収録されており、いずれも秀作です。「生きる」は直木賞受賞作。

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「おはようおかえり」

おはようおかえり

おはようおかえり
近藤史恵
PHP

 小梅は大阪の和菓子屋「凍滝」の長女、母とともに店を商いゆくゆくは店を継ぐことになるのかと考えている。妹つぐみは対照的に奔放な生き方をしそうな大学生、今は演劇に打ち込んでおりエジプトへの留学も考えている。そんな妹にある日曾祖母の霊が乗り移り、妹がやったこともないきんつばを次々と焼き上げる。そんな曾祖母の霊の妹への乗り移りがたびたび起こり、霊の願いは曾祖父の愛人に出した手紙を取り返すことであると知る。その願いに応えようと姉妹二人が活躍する。怖い話ではなく、若い二人が曾祖母の心とつながっていくおはなしが面白い。

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「また、必ず会おう」と誰もが言った

「また会おう」と誰もが言った「また、必ず会おう」と誰もが言った
喜多川泰
サンマーク出版

 17歳の熊本の高校生秋月和也、クラスメートの前で行ったこともないディズニーランドに「行ったことがある」と見栄をはってしまったがために、その証拠作りに親にも内緒でディズニーランドに単独行。しかし渋滞に巻き込まれ帰りの飛行機に乗り遅れ所持金はわずかで途方に暮れる。そんな和也を見かねた空港の土産物売り場のおばさんに助けられ「人間として成長するチャンス」と励まされ、自力で熊本へ帰る奮戦記。多くの人に巡り会い助けられ成長していく物語、おもしろかった。

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「いただきます」

いただきますいただきます
喜多川泰
ディスカヴァー・トゥエンディワン

 商業高校を卒業して間もない主人公:成瀬翔馬、楽して稼げる仕事を探してバイト先を転々とし、大学守衛所の仕事につく。この仕事を去っていく先輩の「もっと楽して実入りのいいバイト、紹介しようか?」のことばにも気持ちが動く。人の出入りの少なくない大学の正門で誰一人として翔馬たちのことを気にする人はいない。誰でもできる仕事、誰がやっても同じだと思っていた仕事。だがていねいに挨拶してくれる男子学生が一人、そして一人にこやかに挨拶してくれる女子学生も現れる。一緒に守衛として働く人生の大先輩たちの仕事ぶり、考え、経歴などを知るにしたがって翔馬の考えも変わっていく。翔馬の「俺、誰でもできる仕事がしたいんじゃないんすよ。俺にしかできないことを探しているんすよ」に、「誰でもできる仕事が一番、誰がやるかで差が出る」なんていう先輩のことば、印象的です。

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「修羅の宴」

「修羅の宴」
楡 周平
講談社

 滝本哲夫は都市銀行のひとつ「いずみ銀行」でその実績が認められた高卒の入行組の雄で、異例ともいえる出世の取締役から日本最大の繊維専門商社浪花物産の経営立て直しを任せられ、ここでもその期待に応えていく。しかし経営が持ち直せばこのポジションは大卒者に奪われ次々と新たな仕事へと使い回されるという高卒者の宿命。だがそんなふうに使い捨てられるのを恐れ、滝本は現在の一国一城の主の地位を守ろうと様々な画策に走る。自らの堅固な城を築けるのか、それとも・・・・?

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「だから荒野」

「だから荒野」
桐野夏生
毎日新聞社

 はじめて読む桐野作品。
夫浩光と大学生の健太・高校生の優太の4人家族の主婦で42歳になった森村朋子は楽しみにしていた誕生日の家族での食事に出かけたが、家族とりわけ浩光の日常と変わらぬ心無い振る舞いやことばにやりきれなくなり食事の途中レストランから一人マイカーで出奔、一人で生きていく決意を固める。車中にあった浩光のゴルフセットを金に換え、マイカーで長崎を目指して西に向かう。
朋美が出会う様々な人・事件と残された浩光たち家族の模様を描いていく面白いストーリー、これも一気読みでした。

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「ふたつめの月」

ふたつめの月「ふたつめの月」
近藤史恵
文藝春秋

 近藤作品「賢者はベンチで思索する」の続編で前作同様主人公は久里子、そして前作の賢者(?)国枝さんは本名の赤坂さんとなって登場する。久里子は服飾雑貨の輸入会社に就職し仕事にやりがいも感じ始めていたところに上司からリストラを言い渡されてしまう。落ち込んで両親にも話せず職探しにも踏み出せず毎日出勤のふりをして家を出る毎日。そんな中、元職場の同僚から久里子の離職が自らの意思であったかのように扱われている言われ不信感が膨らみ始める。行方不明だった赤坂老人にも偶然再会でき、この作品でも時々会う赤坂の言葉に救われ自身の悩みが解消されていく。料理修行のためイタリアに渡った弓田譲との関係の推移も楽しみ。

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「賢者はベンチで思索する」

「賢者はベンチで思索する」
近藤史恵
文藝春秋

 21歳の七瀬久里子は服飾関係の専門学校を出たが思うような職が得られないままファミリーレストラン「ロンド」でアルバイトをしている。自身の未来や引きこもり気味の弟に漠然とした不安を抱え、帰り道小さな公園で慣れないタバコを吸おうとしていたところを老人に声かけられる。ロンドの常連客で、認知症も疑われるように店が暇なとき決まって窓際に席を取り、持参した数日前の新聞とコーヒー一杯で長時間を過ごす老人:国枝。しかし公園で会う時の老人は別人のようで、久里子の話を聞いてくれるようになっていく。やがて老人の何かしらの一言が久里子の抱えている不安を少しずつ晴らすきっかけとなっていく。久里子と国枝老人の心温まるつながりが心地よいお話。

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「桜が散っても」

桜が散っても「桜が散っても」
森沢明夫
幻冬舎

 大手建設会社帝王建設に勤める忠彦は植物好きで妻子と自宅の庭に花を育て週末には自然豊かな桑畑村で渓流釣りを楽しんでいたが、この地に自社が関わって大規模のリゾート開発計画が進んでいる一方でその計画が地盤的に問題があることを知る。そのことに心痛めながらも久しぶりに桑畑村を訪れた忠彦は大規模な山崩れに遭遇し声を失ってしまう。さらには心も病んでしまい家庭が破綻、忠彦は一人家を去ってしまう。残された妻麻美、息子の健太と娘の里奈、それぞれが家族を捨てて去った夫・父は許しがたく心から消し去りたい思いを抱きながら年を重ねていた。そんな母子に父の訃報が届く。
家族それぞれの視点で物語がすすみ、失われていた父との心のつながりが少しずつ温められていくような物語。

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