今は自宅で猫を飼う家庭も少ないでしょう。私の家も飼ってはおりません。そして多分多くの方は、「猫はネズミをとる」と思っているのではないですか。
子どもの頃、私の家の周囲では大抵の家で猫を飼っていました。もちろん放し飼い、そして障子紙には一箇所穴をあけて・・・・。私の家の猫は「チー」という名前で、よくネズミをとるネコでした。ネズミを捕まえると生きた状態で口にくわえて飼い主のところに見せびらかしに来る。居間にくわえてきて、そこで手放し(口放し)、部屋の中で逃げさせては追いかけて捕まえる。さんざん遊んだのち、私たちの見ているところで食べてしまう。見ようによっては残酷だが、しかし当時の私たち人様の間ではこのようにネズミをよく捕ってくる猫がよい猫でした。収穫の多いときには食べきれないネズミを私たちの寝具(布団)の下に隠しておき、これをまた私たちのいるときに引っ張り出して食べたものでした。
当時、このように立派な(?)猫はよくネズミをとったものですが、一方でネズミを全くとらない不出来な(?)猫もいました。ですから、「わが家の猫はよくネズミをとる」というのはひとつの自慢でもありました。
私たちが成長するにつれて科学技術もすすみ、猫に頼らなくともネズミを駆除することができるようになりました。要するにネズミの毒餌です。これなら、飼い猫の当たりはずれにかかわらず、どの家も天井裏のネズミの音から開放される。ありがたいことでした。
ところで、出来のよい猫はこのように人間が猫よりも毒団子に頼るようになったことも知らずにねずみをとり続けました。出来がよいようでも、ねずみのおなかの中に毒団子がはいっているかどうかを見極められるほど優秀ではありません。ねずみの毒は猫の毒、毒入りねずみを食べた猫は死んでしまう運命にあります。その結果、出来のよい猫の血筋はおおかた絶えてしまい、今繁栄しているのはねずみを捕らない猫なのです。
科学技術は出来のよい猫だけを選んで駆逐してしまいました。今は動物図鑑に次のように書くべきです。
「猫はネズミをとらない。」