「あきない正傳金と銀(9)」
高田 郁
角川春樹事務所
生み出した新しい新しい小紋染めで一層の飛躍を期した五鈴屋江戸本店。しかしその斬新な型紙を幸の妹:結に持ち去られてしまう。商売敵となった結と音羽屋により五鈴屋はさらなる危機が訪れる。店の女主人として次々と押し寄せる危機にも知恵を絞って乗り越えていく幸の物語、今回も読みごたえがありました。
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かつて天才子役と言われていたが今は声を失っている小宮透は、自宅を離れ一人暮らしで高校生活をはじめる。その学校には朗読部が存在し、声のでない透を熱心に入部をすすめる同級生の遥(はるか)が・・・・。朗読の世界から遠ざかろうとしていた透が、またその世界に惹き込まれていくおもしろいおはなしでした。
作品を掘り下げて読み、朗読に青春を燃やす高校生たちの姿が印象的です。自身をふり返ると高校生の頃の読書は「ただ読むだけだったなぁ」と。こんなふうに作品を味わい掘り下げる小説がでてくる背景には、読み聞かせボランティアやビブリオバトルのような取り組みがあるのかな。今の高校生は「大人の読者」なんだなと思ってしまいました。
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「朔と新」
いとう みく
講談社
「車夫」シリーズで好印象のいとうみく作品を、と手にしました。
朔(さく)と新(あき)は3つ違いの兄弟、2年前にバスの事故で兄:朔は失明してしまい寄宿舎つきの盲学校に転校、そして卒業し新たち家族の下に帰ってくる。そしてブラインドマラソンに挑戦するため弟:新をパートナーに頼んでくる。事故で失明した朔だけでなく、新や母:加子もそれによって心に傷を負い引きずっているが、ブラインドマラソンを続けながら複雑に絡まっていた糸が少しずつ解けていくようなおはなし。
話の途中には「車夫」の主人公:吉瀬走もさりげなく登場し、前作の愛読者ならこのお話にも一層親近感を覚えてしまいます。
「いのちの停車場」
南 杏子
幻冬舎
東京の医科大学病院で救命救急医として働いていた白石咲和子62歳が郷里:金沢で「まほろば診療所」の訪問診療医に転身する。目の回るような医療現場から一日わずか数件の訪問診療へ、しかし忙しく目の前の命を救うことだけに追われた医療からはゆったりとした現場だと思った訪問医療には個々にそれぞれ病気以外の問題も抱えた患者や家族と向き合う必要に迫られる。しかもその多くは終末期医療。それでも新しい患者に向き合いていねいに寄り添っていく主人公とスタッフの仕事ぶりは温かく、私たちの終末期もこんな訪問診療をしてもらえたらいいなと思ってしまいます。脳神経内科医であった老いた父とのつかの間の二人暮らしも、やがては骨折・入院そして次々と併発する症状で終末期に向かって駆け下るような父を、医者でありながら自身も在宅で支える家族となっていきます。
これもお薦めの一冊。