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「ぼくらはみんな生きている」

ぼくらはみんな生きている

「ぼくらはみんな生きている」
坪倉優介
幻冬舎

 スクーターでトラックに激突し意識不明の重体におちいった大学生、のち奇跡的に目覚めたが重い記憶喪失をかかえた大学生の生活を綴ったノンフィクション。家族もわからず、夜は休むという生活の知識さえももなくしてしまった彼が、子どもが成長するように改めて人間生活をひとつひとつ学びなおしてゆく。美術系の大学、留年もするがやがては卒業、そして染め物職人としての道を生きはじめる。
彼の生活とこころの記録の間にはお母さんの記憶も挿入され、主人公の成長を見守る親の強さ、そして成長を一緒に喜んでいく姿も印象的です。

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「朔と新」

朔と新

「朔と新」
いとう みく
講談社

 「車夫」シリーズで好印象のいとうみく作品を、と手にしました。
朔(さく)と新(あき)は3つ違いの兄弟、2年前にバスの事故で兄:朔は失明してしまい寄宿舎つきの盲学校に転校、そして卒業し新たち家族の下に帰ってくる。そしてブラインドマラソンに挑戦するため弟:新をパートナーに頼んでくる。事故で失明した朔だけでなく、新や母:加子もそれによって心に傷を負い引きずっているが、ブラインドマラソンを続けながら複雑に絡まっていた糸が少しずつ解けていくようなおはなし。
話の途中には「車夫」の主人公:吉瀬走もさりげなく登場し、前作の愛読者ならこのお話にも一層親近感を覚えてしまいます。

「ひとごろし」

ひとごろし「ひとごろし」
山本周五郎
文藝春秋

 表題作他「へちまの木」・「あとのない仮名」・「枡落とし」の短編4作品を収録。
「ひとごろし」は自他ともに臆病者と認める武士:六兵衛が主人公。藩のお抱え武芸者が家中の者を斬って出奔し、その者を討つようにと藩公から上意討ちを命じられる。六兵衛は無謀にもその討手に名乗りを揚げ旅に出る。自身の弱さを知る者の強さ、正々堂々と戦いを挑むなんてことは全く考えず、恥も外聞もなく武芸者を心理的に追い詰めていくおはなし。微笑ましく読めました。

「金足農業 燃ゆ」

金足農業燃ゆ

「金足農業 燃ゆ」
中村 計
文藝春秋

 2019年、夏の甲子園で旋風を起こし決勝まで勝ち進んだ秋田:金足農業高校の野球部の姿を、後にプロ入りしたピッチャー:吉田輝星の子どもの頃から、彼を中心に描いていく。秋田県の高校球界では決して野球エリートとは言えない金足農業のバンカラさややんちゃさを残した野球部員達。エリート争奪戦を繰り広げている高校野球界において雑草集団が甲子園でのびのびと成長していく。こんなチーム、私も応援したくなってしまいます。

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「いのちの停車場」

いのちの停車場

「いのちの停車場」
南 杏子
幻冬舎

 東京の医科大学病院で救命救急医として働いていた白石咲和子62歳が郷里:金沢で「まほろば診療所」の訪問診療医に転身する。目の回るような医療現場から一日わずか数件の訪問診療へ、しかし忙しく目の前の命を救うことだけに追われた医療からはゆったりとした現場だと思った訪問医療には個々にそれぞれ病気以外の問題も抱えた患者や家族と向き合う必要に迫られる。しかもその多くは終末期医療。それでも新しい患者に向き合いていねいに寄り添っていく主人公とスタッフの仕事ぶりは温かく、私たちの終末期もこんな訪問診療をしてもらえたらいいなと思ってしまいます。脳神経内科医であった老いた父とのつかの間の二人暮らしも、やがては骨折・入院そして次々と併発する症状で終末期に向かって駆け下るような父を、医者でありながら自身も在宅で支える家族となっていきます。
これもお薦めの一冊。

「嘘の木」

嘘の木

「嘘の木」
フランシス・ハーディング
児玉敦子 訳
東京創元社

 博物学者の父サンダリーは翼のある人類の発見者として高名であったが、その化石がねつ造であるという噂から一家はヴェイン島に移住してくる。それは島での発掘現場からの招きにもよったのだが、やがてこの島でも父の疑惑が広まってしまう。そして父の不慮の死。その死については自殺の疑いが膨らみ、埋葬もままならない。娘のフェイスは博物学に関心を寄せる14歳の少女、父の残した嘘を養分として成長する「嘘の木」の力を借りながら尊敬する父の汚名を晴らそうとするが・・・・。
女性が科学を志すことはタブーであったり、自殺者が人の道に反する者として扱われたりする時代背景の中で少女が奮闘するおはなしでした。

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「疑心」

疑心「疑心」
-隠蔽捜査3-
今野 敏
新潮社

 アメリカ大統領来日に伴う警備体制に竜崎は方面警備本部長に抜擢される。その秘書として送られてきたのは魅力的な女性キャリアの畠山。竜崎の心に動揺が広がり、合理性の塊のような竜崎も感情に振り回され好ましく思えてくる。前作に引き続き配下のくせ者刑事:戸高が事態を好転させるきっかけをもたらしなかなかいい関係になってきました。

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「果断」

果断「果断」
隠蔽捜査2
今野 敏
新潮文庫

隠蔽捜査の続編です。
前作で降格左遷人事を受けた竜崎の今度の職は東京の大森署長。降格ではあっても今度は一国一城の主、この主人公が本領発揮できる環境のようです。この巻では拳銃を持った逃走犯の立てこもり事件で竜崎の下した決断に非難や責任が降りかかります。妻:冴子の入院もあり、合理主義者竜崎も心が揺らいだり弱気になったりと親しみが持てたりします。解説にもありますが、「俺は、いつも揺れ動いているよ。原則を大切にしようと努力しているだけだ」との竜崎の言葉、いいな!

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「本を守ろうとする猫の話」

本を守ろうとする猫の話

「本を守ろうとする猫の話」
夏川草介
小学館

 主人公:夏木林太郎は、幼い頃に両親が離婚し母は若くして他界したため、自宅を兼ねた古書店:夏木書店を経営する祖父に育てられた高校生。その祖父をも亡くしたところから話は始まる。林太郎は本好きではあるがその他にはこれといって特徴のない高校生、間もなく叔母に引き取られることになるのだが、それまでのあいだ学校を休み店の掃除など祖父のやっていた生活を始めているとそこに人間の言葉を話す猫が登場、本をすくう手助けを頼まれる。
学校を休む林太郎を心配して度々店を訪れる女学級委員長との関係もちょっと気になるなか、本離れが進む現代社会の危機感を感じつつ、本の世界本来の魅力を再確認させるようなお話しをファンタジックに、そして本好きオタクの主人公をちょっとかっこよく思えるように物語っています。

「神様のカルテ」シリーズでおなじみの夏川草介さんが新しい世界を拓いてくれたようです。

「居酒屋兆治」

居酒屋兆治

「居酒屋兆治」
山口 瞳
小学館

 山本周五郎が高く買っていたという作家:山口瞳の作品、気になっていました。「居酒屋・・」とうたっているけれど、どうやら舞台は焼鳥屋さん。そして時は昭和。この店に子ども時代からの仲間のような常連さんがやってきて織りなす人間模様。「居酒屋ぼったくり」のように次々としゃれた料理や酒が登場するのと異なり、主人公の不器用な生き方を描いているような作品。おとこのお話しという感じがしました。

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