日別アーカイブ: 2016年9月7日

ツバキ文具店

ツバキ文具店ツバキ文具店
小川 糸
幻冬舎

 鎌倉の海からちょっと離れたところにある小さな一軒家の文具店。看板は文具店だが代書屋も営んでいる。祖母である先代から受け継いだ店主は鳩子:まだ若い独身女性。周囲からはその名前から「ぽっぽちゃん」と呼ばれている。先代からは厳しくしつけられ、紆余曲折はあったが今では店主。かつては代書という仕事に反発した鳩子に、

「たとえば、誰かに感謝の気持ちを伝えるため、お菓子の折り詰めを持って行くとする。そういう時、たいていは自分がおいしいと思うお店のを買って、持って行くだろう?・・・・ 自分でお菓子を作って持って行かなくても、きちんと、お菓子屋さんで一生懸命選んで買ったお菓子だって、気持ちは込められるんだ。
代書屋だって同じことなの。
自分で自分の気持ちをすらすら表現できる人は問題ないけど、そうできない人のために代書をする。その方が、より気持ちが伝わる、ってことだってあるんだから。」

という先代の言葉、なるほどなるほどと納得してしまいました。
代書で仕上がった文章は活字でなく手書きをそのまま印刷してあります。依頼の内容に応じて、依頼人になりきって書く文章はもちろんのこと、字体も使うペンもインクも、紙も封筒も、と手を尽くせる限りを尽くす代書の仕事に感心してしまいます。
依頼主との様々な出会いがあり、近所・友人との交わりを深めながら一つづつ代書を仕上げていく。そして最後にはそれまで書けなかった自身の手紙。

人と人とのやりとりのかなりを電話で、そしてメールですませてしまう現代。でも改めて「手紙っていいな」と思わせてくれる本でした。

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