日別アーカイブ: 2006年3月2日

毎週水曜日

この年、先生は水曜日の練習に毎週みえた。奥様と幼い娘さん二人をつれ、自家用車でである。それから当時ちょっとしたヒット商品であったろうが、ソニーのカセット・デンスケという革製ケース入り携帯用のカセットデッキを肩から下げてきた。そして、いつの練習もこれに録音されていた。

70才超の先生にとって東京からの運転は大変なことだったと思うが、私たちの合唱団に本当に情熱を注いでくれたと思う。それだけに、練習には厳しかった。特に旋律を唱うソプラノには厳しかった記憶がある。先生の指導は技術的なところではなく、むしろ人間的なところに向けられる。印象に残っている言葉としては、まず第一に「聴いて聴いて」だ。この年、先生は徹底して「聴く」ことを教えてくれたように思う。それから「お話しとおんなじだよ」ということ、「聞いている人に言葉がわからなければいけない」とも言われた。「うたやいいんでしょ」という乱暴な唱い方を戒められ、小さな声でそっと唱ってみせて曲の中で語ることを教えてくれた。そして良くないときには「全く冷淡だよねー。」とため息をつくように言われた。だから先生からは音楽と一緒に人間的な部分、人間性というようなものについて教わった気がする。