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「点と線」

時刻表を殺意が走る

「点と線」
松本清張
新潮社

 有名な清張作品。汚職事件捜査中の××省課長補佐の博多での情死事件に殺人事件ではないかとの疑問を持ち、列車時刻表に絡む完璧なアリバイを崩していく推理小説。新幹線の開通以前で東京-博多間が特急で約20時間、青函連絡船が登場したりと時代を感じさせます。最後は手紙の中で真相が明かされて行きますが、犯人を前にして語って追い詰めて欲しいなんて思うのは読者のわがままでしょうか。
読みながらやっぱり考えてしまいますね、われわれ現実世界の財務省職員の自殺事件。こちらもしっかり謎を解いて欲しいな。

「隠蔽捜査」

隠蔽捜査「隠蔽捜査」
今野 敏
新潮社

 先日TVで10年前に無実の罪で半年近く勾留された経験を持つ元厚生労働事務次官・村木厚子さんがこの著者と対談していました。村木さんは今野作品の愛読者とのこと、今度読んでみようと思ってはじめて手にしたのがこの小説。
竜崎伸也47歳、東大卒の警察庁キャリアで現在は警察庁長官官房総務課長。家庭のことは妻に任せエリートコースをひたすら歩んできた竜崎だが、社会復帰した少年犯罪加害者への連続殺人事件のマスコミ対策に追われると同時に息子の犯罪行為にも遭遇する。エリート意識を紛々と漂わせるのにはちょっと不快感も覚えますが、悩みながらも真っ直ぐ突きすすんでいく主人公には肩入れしてしまいます。

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「鳴門秘帖」

鳴門秘帖

鳴門秘帖(一・二・三)
吉川英治
講談社

 BS時代劇でこの鳴門秘帖が放映されているようですが、残念ながら我が家では・・・・。
阿波の国藩主:蜂須賀家を中心とした倒幕の動きに、それを調べようと隠密:甲賀世阿弥が阿波に潜入したしたが何年も行方不明。そこで世阿弥の足跡をたどろうと阿波に潜入しようとする主人公の物語。舞台は大阪・京都・江戸・中山道・阿波と移っていきます。主人公は剣では滅法腕の立つ法月弦之丞で、それをとりまくのは弦之丞に心寄せる女掏摸のお綱、弦之丞の許嫁お知恵様、弦之丞と志を一にする目明かし万吉、お綱に心寄せ何かと弦之丞をつけ狙うお十屋孫兵衛、お知恵様に横恋慕しやはり弦之丞の妨げとなる旅川周馬などなど多彩な顔ぶれが物語を彩っている。それぞれの登場人物が「宮本武蔵」に登場する人物とも重なって見え、不朽の名作「宮本武蔵」下地になった作品のようにも思いました。
ただストーリーの組み立ては少し強引かな、最後には「著者はかなりの尊皇思想だったのかな」なんてことも思ってしまいました。

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「ライオンのおやつ」

ライオンのおやつ

ライオンのおやつ
小川 糸
ポプラ社

 ガンとの長い闘病の末余命幾ばくもないことを宣告されてしまった若い女性が、瀬戸内海の島にあるホスピス施設:「ライオンの家」にやってくる。ここにはゲスト(入居者)がリクエストしたもう一度食べたい思い出のおやつを一つだけ選んでみんなで食べるという週1回の「おやつの時間」がある。この施設の代表であるマドンナのあたたかい寄り添い、ぶどう畑で働く青年:タヒチ君、セラピー犬のロッカに囲まれて先に逝く人を看取り、やがては主人公が穏やかに死をむかえるまでの物語。悲壮感漂うはなしではなく、こんな終末が迎えられたらいいなと思えるようなおはなしでした。

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「居酒屋ぼったくり4」

居酒屋ぼったくり4居酒屋ぼったくり4
秋川滝美
アルファポリス

 シリーズ第4作目。若い女性が妹と一緒に営む居酒屋「ぼったくり」。名前に反して、料理が美味しくて財布にやさしい。常連客が集い、人情味あふれる小さな話が料理と共に出てくるミニストーリーが1冊に6話収められている。この居酒屋でのはなしが基本なのですが、今回の第4話は店で使っていたオーブントースターが壊れて大型家電店に買いに行くはなし。成り行きで気になる客:要と買い物、そして要の自宅へ。ちょっとした出張料理のようなはなしがまたよかった。

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「あきない正傳金と銀(八)」

あきない正傳金と銀8あきない正傳金と銀(八) 瀑布編
高田 郁
角川春樹事務所

 今年2月に発売されたシリーズ8作目、三分の一ほど読み進みました。
大阪から江戸に進出した呉服商:五鈴屋、江戸店も順調に回り始め独自の新商品小紋染めが評判となるが、麻疹の大流行が起こり客足が途絶えてしまう。ちょうど今現在の新型コロナウィルス禍とそれによる経済状況の悪化を見据えていたかのようなストーリーです。小説の中ではいずれ流行も収まってまた商売が回り始め主人公:幸の商いでの活躍が楽しめるのでしょうが、私たちをとりまくウィルス禍はどうなるのでしょうか?

「わたしは女王を見たのか」

わたしは女王を見たのか

わたしは女王を見たのか
V.ハミルトン作
鶴見俊輔訳
岩波書店

 エリザベスとジョンの姉弟が夏休みをロスおじさんのもとで過ごすことになる。想像力豊かなエリザベスはブタの世話をする仕事の父娘の気品ある娘の姿に魅せられ“女王”を感じる。
登場人物は全員がアフリカ系アメリカ人で、生活面では決して恵まれないこれらの人々が自分たちのルーツに誇りをもって生きている、母国から不条理に連れてこられ人種差別の社会の中でもなお誇りを失わないで生きていることがうかがえるおはなしでした。

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「秋霜」

秋霜秋霜
葉室 麟
祥伝社

 豊後羽根藩の欅御殿で儒学者の臥雲、おりうとともに孤児達を育て平穏に暮らす楓。そこに剣ではなく木刀を携えた不遇の男:草薙小平太が訪れる。腕は立つが薪割りや水汲みなど下男の仕事を黙々とこなす小平太が欅御殿の面々に次第に溶け込んでいく。小平太をはじめ欅御殿にかかわる多くの大人達が当初の思惑の好悪にかかわらずいつのまにかここに住む人たちを守っていこうと思ってしまう。非道とも思われた藩の重臣の心の底にもその人独自の武士道が流れたりして、このあたりが葉室さんでなければ描けない武士道かなと思いました。

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「八月の太陽を」

八月の太陽を八月の太陽を
乙骨淑子 作
滝平二郎 絵
理論社

 1800年頃起きたアフリカ人とアフリカ人を祖先に持つ人々がフランスの植民地統治から解放され、奴隷状態からも解放される「ハイチ革命」を革命指導者トウセンを主人公に描いた作品。統治国フランスが、革命やその失敗、そしてナポレオンの時代へと激動する中で先を見据えたトウセンの忍耐力・判断力・指導力がよく描かれています。ここでも植民地支配や民族差別を知ることができました。そして民主化のための長い戦いも。

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「勿忘草の咲く町で」

勿忘草の咲く町で

勿忘草の咲く町で
~安曇野診療記~
夏川草介
角川書店

 「神様のカルテ」シリーズでお馴染み・夏川草介さんの新作。長野県松本市郊外にある民間病院を舞台に、本業お医者さんの著者ならではの若い看護師・月岡美琴と研修医・桂正太郎の物語。患者の高齢化で胃瘻や認知症・介護・看取りなど退院しても自分の生活に戻れるわけではない患者さんの治療のあり方、過重労働など地域の病院が抱える重い課題に正面から向き合い、その悩みが若い二人の物語の中に語られています。もちろん二人の関係にはちょっとワクワク。
「神様のカルテ」の主人公とも接点ができそうだったのですが、その楽しみは続編へ残したようです。と言うわけで続編も出してくれるんでしょうね、期待しています。

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