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「みかづき」

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森 絵都
集英社

 小学校の用務員:大島吾郎は放課後の用務員室で学習に躓いた子どもたちの面倒をみている。集中力のない瞳の落ち着きのない子が躓きを乗り越えて、その瞳が揺るがなくなっていく。そんな用務員室に瞳に揺るぎのない女の子が来はじめる、そしてその母親も。やがてこの二人で開く塾は今では当たり前の存在となっている学習塾の先駆けとなる。親・子・孫と3代にわたってこれを育て、社会の変質に沿っていく私教育を描いた小説です。

 学校が舞台のおはなしは数多くありますが、学習塾という縁遠かった世界を描いたおはなし、興味深く読むことが出来ました。

「大沼ワルツ」

%e5%a4%a7%e6%b2%bc%e3%83%af%e3%83%ab%e3%83%84大沼ワルツ
谷村志穂
小学館

 北海道函館の近く、大沼というところは素晴らしい自然があるという。そんな所に育った開拓2世の3兄弟の下に山梨県韮崎市祖母石から3姉妹が嫁ぐ。3夫婦が手を携え合って生きてゆく、そんな物語です。

私の勤め先は韮崎市、同僚には祖母石の方もいます。そんなすぐ近くが第2に舞台になるこの小説には大変な親近感を感じてしまいました。私たちが子どもの頃、この地は台風による大災害がありましたが、小説の中にはそんな場面も登場します。3兄弟のところに3姉妹が、そんな実話があるのだそうです。同僚からは「少し調べてみようかな」なんてことばも聞かれました。3姉妹を北海道に嫁がせた家が見つかるかな?

「蓮花の契り」

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蓮花の契り
高田郁
角川春樹事務所

 「出世花」の続編。前作を読んだ読者から、その後をのぞむ声が寄せられて書いたとか。墓寺:青泉寺の湯灌の仕事で「三昧聖」と呼ばれる縁。生母の下へ身を寄せての親子関係の行方、師のようでもあり兄のようでもある副住職:正念の還俗への誘いと縁との関係の行方など目を離せない展開。多くを書いてしまうとこれから読む楽しみが薄れてしまいますのでこれくらいに。前作に続いてこちらも作品に没頭できました。

「悪夢の・・・・」続報

先日読後感を投稿した「”悪夢の超特急”リニア中央新幹線」についての続報です。

以下のページを見つけました。参考まで。

1<悪夢の超特急リニア中央新幹線> 「書店に並ぶ直前に、3000部全部裁断されてしまった」4/13樫田秀樹氏 岩上安身氏インタビュー(文字起こし)
http://kiikochan.blog136.fc2.com/blog-entry-4229.html

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「“悪夢の超特急”リニア中央新幹線」

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“悪夢の超特急”リニア中央新幹線
樫田秀樹
旬報社

 度々利用している軽食喫茶のお店は室内の棚に多くの本が並べられています。そこでこの本を見つけてどんな内容だろうと手に取り少しだけ開いてみたところ、「どうぞお持ち下さい」と貸していただけることになりました。

リニア中央新幹線・・・・あまり感心を持たない私にとってのそれは夢の技術、夢の鉄道、そんな印象でした。でもこれを読んでいるとそんな夢のような気持ちは吹き飛んでしまいます。掲げられているいくつかの懸念は

・工事による周辺の水涸れ
・掘り出される膨大な量の建設残土の処理
・新幹線の3倍以上の消費電力、それは原発による発電が前提では?
・発生する電磁波の影響
・ウラン鉱床地帯にトンネルを開ける可能性
・膨大な建設費に対する採算性

と多岐にわたります。そうした懸念・疑問に丁寧に答え、不安が払拭されてこそ建設に向けてすすんで行けるものだと思うのですが、現実はそうではないようです。

何よりも驚くのは、こうした疑問にJR東海が答えようとしないこと。「開発ありき」で突き進んでいる巨大プロジェクトのようです。巨大プロジェクトには環境影響評価があって環境的に疑問があればそれについて十分な検討がなされ納得させてすすむものだと思っていました。しかしこの評価制度にも前へ前へと突き進む事業を立ち止まらせる力はないのだと知りました。

しっかりとした議論の下で事業がすすんでいくのなら闇雲に反対するものでもないと思うのですが、周囲の疑問の声に耳を傾けることなく突きすすむ事業主体の様(さま)に驚かされるばかりです。

みなさん、いちど読んでみませんか。

偶然屋

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七尾与史
小学館

 主人公:水氷里美。一流大学は出たけれど挑戦し続けた司法試験はとうとうあきらめて就活の日々、そんな中で見つけた求人の張り紙。応募して指定された面接場所は何とパチンコ屋。パチンコは大当たりしたけれど面接相手は現れず、成り行きで店員の悩みを聞いて奔走。そんな働きを評価(?)されてめでたく就いた仕事はアクシデント・ディレクター。出だしからおもしろい展開でした。
多分推理小説の範疇に入るのだと思います。秋葉原の無差別殺人事件など現代の病理的な事件をも多分に意識した内容で背筋が寒くなる思いもありますが、予想をはるかに超える予想外の展開が用意されていて「一気読み」作品でした。

「残月」「美雪晴れ」「天の梯」

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みをつくし料理帖
角川春樹事務所

みをつくし料理帖シリーズ10冊の最後の3冊、一気に読み終えました。新しい料理を創作しながらその時その時のハードルを乗り越えていく、そんなお話しが1冊に4話収録されるという一貫したスタイルです。そしてシリーズを通してのテーマは育てられた料理屋の江戸店の再興、吉原の幼なじみの身受け、自身の料理家としての針路、それらに想像とはちょっと違う答えが用意され、終わり方もなかなかです。

7冊読んだところで中断し他の作家の作品をしばらく読んだのですが、何ヶ月ぶりかでこの続編を読み始めると「やっぱりいいな!」と改めて思います。テレビドラマにもなったようですがネットで配役など見ていると原作とはイメージが違ってしまいそうです。映像は見るチャンスがあっても控えておこうかな。

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食堂かたつむり

%e9%a3%9f%e5%a0%82%e3%81%8b%e3%81%9f%e3%81%a4%e3%82%80%e3%82%8a食堂かたつむり
小川 糸
ポプラ社

 主人公:倫子、25歳。同居していた彼が突然失踪して荷物は全てなくなりアパートはもぬけの空。買いためてきたこだわりの調理器具もすっかり持って行かれ、倫子はショックで声を失ってしまう。唯一残されていたのは玄関外のガスメータが入った空間に保存しておいたぬか床だけ。そのぬか床を抱えて絶縁していた郷里の母の下へ帰る。

複雑な関係の母に借金をして郷里で「食堂かたつむり」を始める。コミュニケーションは筆談だが、予約制で一日一人・一グループ限定の心のこもった料理がすこしずつ評判になっていく。可愛がっていた豚をしめるシーンなどは「ここまで書くかな~!」と。でも料理にこだわり人間関係も融けていく小説、おもしろかった~。

ツバキ文具店

ツバキ文具店ツバキ文具店
小川 糸
幻冬舎

 鎌倉の海からちょっと離れたところにある小さな一軒家の文具店。看板は文具店だが代書屋も営んでいる。祖母である先代から受け継いだ店主は鳩子:まだ若い独身女性。周囲からはその名前から「ぽっぽちゃん」と呼ばれている。先代からは厳しくしつけられ、紆余曲折はあったが今では店主。かつては代書という仕事に反発した鳩子に、

「たとえば、誰かに感謝の気持ちを伝えるため、お菓子の折り詰めを持って行くとする。そういう時、たいていは自分がおいしいと思うお店のを買って、持って行くだろう?・・・・ 自分でお菓子を作って持って行かなくても、きちんと、お菓子屋さんで一生懸命選んで買ったお菓子だって、気持ちは込められるんだ。
代書屋だって同じことなの。
自分で自分の気持ちをすらすら表現できる人は問題ないけど、そうできない人のために代書をする。その方が、より気持ちが伝わる、ってことだってあるんだから。」

という先代の言葉、なるほどなるほどと納得してしまいました。
代書で仕上がった文章は活字でなく手書きをそのまま印刷してあります。依頼の内容に応じて、依頼人になりきって書く文章はもちろんのこと、字体も使うペンもインクも、紙も封筒も、と手を尽くせる限りを尽くす代書の仕事に感心してしまいます。
依頼主との様々な出会いがあり、近所・友人との交わりを深めながら一つづつ代書を仕上げていく。そして最後にはそれまで書けなかった自身の手紙。

人と人とのやりとりのかなりを電話で、そしてメールですませてしまう現代。でも改めて「手紙っていいな」と思わせてくれる本でした。

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海の見える理髪店

海の見える理髪店1
海の見える理髪店2

海の見える理髪店
荻原 浩
集英社

本年度の直木賞受賞作です。

海辺の小さな町、駅からバスで数箇所目のバス停で降りて徒歩で数分、そんなところにある理髪店がネット上で評判になっている。主人公の若者が客としてこのお店を訪れる。客の前にある大きな鏡を通して海原が見えるらしい。その理髪台に座ると店の主人が若者に話しかける。その話がこの物語そのもの、そして最後には店主と若者の関係、若者がなぜこの理髪店にきたのかが明かされる。
わずか40ページの短編ですが濃いおはなしでした。それから中表紙もいいなと思いましたので並べてみました。

他5編の短編集。いずれも家族をテーマにした作品で、心模様がリアルです。

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