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「あきない正傳金と銀(八)」

あきない正傳金と銀8あきない正傳金と銀(八) 瀑布編
高田 郁
角川春樹事務所

 今年2月に発売されたシリーズ8作目、三分の一ほど読み進みました。
大阪から江戸に進出した呉服商:五鈴屋、江戸店も順調に回り始め独自の新商品小紋染めが評判となるが、麻疹の大流行が起こり客足が途絶えてしまう。ちょうど今現在の新型コロナウィルス禍とそれによる経済状況の悪化を見据えていたかのようなストーリーです。小説の中ではいずれ流行も収まってまた商売が回り始め主人公:幸の商いでの活躍が楽しめるのでしょうが、私たちをとりまくウィルス禍はどうなるのでしょうか?

「わたしは女王を見たのか」

わたしは女王を見たのか

わたしは女王を見たのか
V.ハミルトン作
鶴見俊輔訳
岩波書店

 エリザベスとジョンの姉弟が夏休みをロスおじさんのもとで過ごすことになる。想像力豊かなエリザベスはブタの世話をする仕事の父娘の気品ある娘の姿に魅せられ“女王”を感じる。
登場人物は全員がアフリカ系アメリカ人で、生活面では決して恵まれないこれらの人々が自分たちのルーツに誇りをもって生きている、母国から不条理に連れてこられ人種差別の社会の中でもなお誇りを失わないで生きていることがうかがえるおはなしでした。

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「秋霜」

秋霜秋霜
葉室 麟
祥伝社

 豊後羽根藩の欅御殿で儒学者の臥雲、おりうとともに孤児達を育て平穏に暮らす楓。そこに剣ではなく木刀を携えた不遇の男:草薙小平太が訪れる。腕は立つが薪割りや水汲みなど下男の仕事を黙々とこなす小平太が欅御殿の面々に次第に溶け込んでいく。小平太をはじめ欅御殿にかかわる多くの大人達が当初の思惑の好悪にかかわらずいつのまにかここに住む人たちを守っていこうと思ってしまう。非道とも思われた藩の重臣の心の底にもその人独自の武士道が流れたりして、このあたりが葉室さんでなければ描けない武士道かなと思いました。

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「八月の太陽を」

八月の太陽を八月の太陽を
乙骨淑子 作
滝平二郎 絵
理論社

 1800年頃起きたアフリカ人とアフリカ人を祖先に持つ人々がフランスの植民地統治から解放され、奴隷状態からも解放される「ハイチ革命」を革命指導者トウセンを主人公に描いた作品。統治国フランスが、革命やその失敗、そしてナポレオンの時代へと激動する中で先を見据えたトウセンの忍耐力・判断力・指導力がよく描かれています。ここでも植民地支配や民族差別を知ることができました。そして民主化のための長い戦いも。

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「勿忘草の咲く町で」

勿忘草の咲く町で

勿忘草の咲く町で
~安曇野診療記~
夏川草介
角川書店

 「神様のカルテ」シリーズでお馴染み・夏川草介さんの新作。長野県松本市郊外にある民間病院を舞台に、本業お医者さんの著者ならではの若い看護師・月岡美琴と研修医・桂正太郎の物語。患者の高齢化で胃瘻や認知症・介護・看取りなど退院しても自分の生活に戻れるわけではない患者さんの治療のあり方、過重労働など地域の病院が抱える重い課題に正面から向き合い、その悩みが若い二人の物語の中に語られています。もちろん二人の関係にはちょっとワクワク。
「神様のカルテ」の主人公とも接点ができそうだったのですが、その楽しみは続編へ残したようです。と言うわけで続編も出してくれるんでしょうね、期待しています。

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「水曜日の手紙」

水曜日の手紙水曜日の手紙
森沢明夫
角川書店

 水曜日のことを書いて「水曜日郵便局」に送ると、その郵便局では集まった手紙をシャッフルして送ってくれた人へ転送してくれる。日々の生活に疲れた人、生き方に悩んでいる人が水曜日郵便局に手紙を送り、受け取った手紙でそれぞれの何かが変わっていく。人生が新しい方向に動き出す。そんな「いい話だな」と思える物語です。
こんな郵便局、あったらいいな。

「恋するハンバーグ」

恋するハンバーグ恋するハンバーグ
佃はじめ食堂
山口恵以子
角川春樹事務所

 東京下町佃島にあるシェフ:孝蔵と一子夫婦の洋食屋のおはなし。一流ホテルの厨房から独立して格好良く腕も立つ孝蔵と美人で人柄も良い一子、周囲の温かい人たちとお客様がかかわって、おいしくて愛される庶民的な洋食屋に育っていきます。駄菓子屋・ウルトラマン・国鉄のスト・ブルーコメッツ・大鵬・大阪万博、なつかしい昭和が次々と登場するのも嬉しい。
知らなかったのですが、これは「食堂のおばちゃん」シリーズの2作目。シリーズの作品を続けて読んでみようと思います。

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「熱源」

熱源熱源
川越宗一
文藝春秋

 今年の直木賞作です。 サハリン島(樺太)の先住民アイヌの人たちを中心とした物語。先住民のものだった土地(島)が日本の支配を受けたりロシアのものになったり、日露戦争の結果日ロで折半したり、そしてまた日本の敗戦でロシアの支配下になったりと大国の間で翻弄される。支配する側の文化が高いとされてその文化を先住民に押しつけ土地を取り上げていく、そんな理不尽さや先住民と言われる人たちの悲しさが綴られていきます。

先日、台湾の先住民族がやはり日本や中国の支配を受けるようになっていく映画「セデック・バレ」をみました。以前には「ダンス・ウィズ・ウルブズ」という映画がありましたが、ここでもアメリカの先住民が移住してきた白人に土地を追われていく様が描かれていました。「リトル・トリー」という小説もありましたね。かつて西部劇を見て白人が正義、先住民が悪のような表現を何も考えずに見ていましたが、征服される側から見た征服者の理不尽な論理を伝えるのがこれらの作品の共通のテーマ。この「熱源」も読みごたえがありました。

「年とったばあやのお話かご」

年とったばあやのおはなしかご年とったばあやのお話かご
ファージョン作
石井桃子訳

 年とったばあやが3歳・5歳・7歳の4人の子に寝室で繕い物をしながらお話をしてくれます。ばあやが以前面倒をみてあげた子どものお話。時には何百年も前の物語の中の人物の子守りであったり、歴史上の人物の子守りであったり。この婆やの年齢はいったいいくつなんでしょうか?こんなばあやが子どもにするほら吹き話、石井桃子さんの名訳で楽しく読めます。

「甘夏とオリオン」

甘夏とオリオン甘夏とオリオン
増山 実
角川書店

 主人公:甘夏は夏之介門下の駆け出し女性落語家。師匠の突然の失踪にも兄弟子二人とともに噺家の家を守っていくことに。下宿している銭湯で師匠を待つ深夜の寄席がはじまります。師匠と同門の噺家の協力で三人の落語も成長の気配。でもこの本では完結していない感じ、続編が出るのでしょうね、きっと。