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「水曜日の手紙」

水曜日の手紙水曜日の手紙
森沢明夫
角川書店

 水曜日のことを書いて「水曜日郵便局」に送ると、その郵便局では集まった手紙をシャッフルして送ってくれた人へ転送してくれる。日々の生活に疲れた人、生き方に悩んでいる人が水曜日郵便局に手紙を送り、受け取った手紙でそれぞれの何かが変わっていく。人生が新しい方向に動き出す。そんな「いい話だな」と思える物語です。
こんな郵便局、あったらいいな。

「恋するハンバーグ」

恋するハンバーグ恋するハンバーグ
佃はじめ食堂
山口恵以子
角川春樹事務所

 東京下町佃島にあるシェフ:孝蔵と一子夫婦の洋食屋のおはなし。一流ホテルの厨房から独立して格好良く腕も立つ孝蔵と美人で人柄も良い一子、周囲の温かい人たちとお客様がかかわって、おいしくて愛される庶民的な洋食屋に育っていきます。駄菓子屋・ウルトラマン・国鉄のスト・ブルーコメッツ・大鵬・大阪万博、なつかしい昭和が次々と登場するのも嬉しい。
知らなかったのですが、これは「食堂のおばちゃん」シリーズの2作目。シリーズの作品を続けて読んでみようと思います。

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「熱源」

熱源熱源
川越宗一
文藝春秋

 今年の直木賞作です。 サハリン島(樺太)の先住民アイヌの人たちを中心とした物語。先住民のものだった土地(島)が日本の支配を受けたりロシアのものになったり、日露戦争の結果日ロで折半したり、そしてまた日本の敗戦でロシアの支配下になったりと大国の間で翻弄される。支配する側の文化が高いとされてその文化を先住民に押しつけ土地を取り上げていく、そんな理不尽さや先住民と言われる人たちの悲しさが綴られていきます。

先日、台湾の先住民族がやはり日本や中国の支配を受けるようになっていく映画「セデック・バレ」をみました。以前には「ダンス・ウィズ・ウルブズ」という映画がありましたが、ここでもアメリカの先住民が移住してきた白人に土地を追われていく様が描かれていました。「リトル・トリー」という小説もありましたね。かつて西部劇を見て白人が正義、先住民が悪のような表現を何も考えずに見ていましたが、征服される側から見た征服者の理不尽な論理を伝えるのがこれらの作品の共通のテーマ。この「熱源」も読みごたえがありました。

「年とったばあやのお話かご」

年とったばあやのおはなしかご年とったばあやのお話かご
ファージョン作
石井桃子訳

 年とったばあやが3歳・5歳・7歳の4人の子に寝室で繕い物をしながらお話をしてくれます。ばあやが以前面倒をみてあげた子どものお話。時には何百年も前の物語の中の人物の子守りであったり、歴史上の人物の子守りであったり。この婆やの年齢はいったいいくつなんでしょうか?こんなばあやが子どもにするほら吹き話、石井桃子さんの名訳で楽しく読めます。

「甘夏とオリオン」

甘夏とオリオン甘夏とオリオン
増山 実
角川書店

 主人公:甘夏は夏之介門下の駆け出し女性落語家。師匠の突然の失踪にも兄弟子二人とともに噺家の家を守っていくことに。下宿している銭湯で師匠を待つ深夜の寄席がはじまります。師匠と同門の噺家の協力で三人の落語も成長の気配。でもこの本では完結していない感じ、続編が出るのでしょうね、きっと。

「合言葉は手ぶくろの片っぽ」

合言葉は手ぶくろの片っぽ合言葉は手ぶくろの片っぽ
乙骨淑子 作
浅野竹二 画

 神戸港を出港しカナダを目指す貨物船ぺがさす丸に乗り込む若者二人、一人はコックの洋一、そしてもう一人は新入り船員の六平。出港して間もなく密航の若者一人の一匹の犬が出現。主人公の二人を含む若い船員数人がこの一人と一匹の密航を助ける物語。密航がばれないかとハラハラしたり、台風の大嵐の中の航海があったり、スリル満点の物語です。

ゲド戦記の名訳で有名な清水真砂子さんが推奨する乙骨さんの作品です。

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タスキメシ-箱根-

タスキメシ箱根「タスキメシ-箱根-」
額賀 澪
小学館

 以前読んだ「タスキメシ」の続編です。
学生時代に故障で箱根駅伝への出場がかなわなかった主人公:早馬が病院での調理師の職を辞して、スポーツ栄養学を学ぶため紫峰大学の大学院に入学する。箱根駅伝を夢見ながらまだ出場がかなわぬ駅伝部の監督の強力な勧誘を受け、駅伝部の寮に住み込み、管理栄養士兼コーチとして選手達とともに故障者にも寄り添いながら箱根駅伝出場を目指す物語。駅伝部員に出される食事メニューが話の節毎に掲げられたユニークな構成で語られていきます。
主人公の元同僚や弟などは東京オリンピックを目指してMGC(マラソン・グランド・チャンピオンシップ)に出場、そしてフィナーレでは東京オリンピックのマラソンも登場するのですが、オリンピック本番のマラソンも会場は東京。どうやら昨年のマラソン会場移転騒ぎの前に執筆されたようです。現実のことも交えてリアルさを高めた作品を目指したのでしょうが、こんなところにも移転騒ぎの影響が出てしまいました。

「まち」

まち

「まち」
小野寺史宣
祥伝社

 主人公:江藤俊一は幼くして旅館を営む両親を火事で亡くし、尾瀬で歩荷(ぼっか)をしていた祖父に育てられた。祖父のすすめで高校卒業とともに上京し、アパートに一人暮らし、コンビニのバイトから引っ越しの荷物運びのバイトという生活の中で主人公が徐々に人のつながりをつくっていく物語。後半では直木賞作「ひと」の総菜屋さんも登場したり、アパート:筧ハイツは他の作品でも登場しているらしい。何かしら他の作品と繋がっていくのも面白い。私にとっては小野寺作品7作目、いつもながらあたたかな作品でした。

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「よろずや平四郎活人剣(上・下)」

よろずや平四郎活人剣

「よろずや平四郎活人剣(上・下)」
藤沢周平
文春文庫

 主人公・神名平四郎は旗本の妾腹の子で冷や飯食い。実家を出て三人で剣道場を開くという話に乗ったが金を持ち逃げされ、裏店に住み着いて始めたのが「喧嘩50文、口論20文、とりもどしもの百文、よろずもめもご仲裁つかまつり候」という商売。食うや食わずの生活この商売に悪戦苦闘し、それでも徐々によろずや家業が板についていく。一話40ページほどの軽いおはなし集で楽しめる。

火鉢の炭を灰の中から掘り起こして暖をとる場面が何度も登場します、友人宅で家族の温かさをちょっと知って帰った時にはこの火鉢の火がとぼれてしまっていて、竈(へっつい)で湯を沸かしながら暖をとったりと一人暮らしのわびしさを絶妙に表現。気の小さい町人の依頼者が来て戸をたたく場面、「風かと疑ったほど小さな音だったが、耳を澄ましていると、またほとほとと戸が鳴った。」の「ほとほと」なんていう擬音語があったかな?藤沢さんの造語かなとも思いながら、でもこんな表現もいいなと思います。私はやっぱり藤沢周平ファン。

「シャーロットのおくりもの」

シャーロットのおくりもの「シャーロットのおくりもの」
E.B.ホワイト 著
鈴木哲子 訳
G.ウィリアムス さし絵

 とても小さくて弱く生まれたブタのウィルバーは生まれたてでいのちを絶たれそうなところを、その家の女の子ファーンにたすけられ大事に育てられる。やがて違う家に引き取られ、そこでは羊やガチョウ、ネズミにクモなどと一緒に暮らす。みんなそれぞれに温かく見守られ育っていくウィルバーがかわいい。なかでもクモのシャーロットは一番の友だちに。やがては屠殺されて食肉となってしまうシャーロットの運命がどうなるのか?

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