日別アーカイブ: 2022年2月22日

「慟哭は聴こえない」

慟哭は聞こえない

「慟哭は聴こえない」
丸山正樹
東京創元社

 「デフ・ヴォイス」シリーズの3作目です。主人公は家族の中でただ一人「聞こえる」人、手話と音声日本語両方を使いこなし手話通訳を仕事としている。本書は4話で構成されており、生命を授かった女性が医療を受けることの困難さや、モデルの男性に対してそのマネージメント・スタッフの期待する姿とのずれ、障害者雇用をしながらその働く環境についての約束を果たさない会社に対して女性が起こした訴訟にかかわることなど、聴力障害の方たちの抱える不合理さに手話通訳としてかかわっていく主人公の姿が描かれています。
第3話では不審死を遂げた人物の身元を調べる中でろう者であったことがわかり、その人物のTVに移ろうとしていた映像記録からその背景を探っていくおはなし。瀬戸内海の小島に残るローカルな手話が登場し、漁師の間で聴力の有無を超えて手話で意思疎通が行われていたその土地の文化にも驚かされました。著者が伝えたいことがこんなところに凝縮されているのかな。

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