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「代筆屋」

代筆屋代筆屋
辻 仁成
海竜社

図書館で手にして読んでみることにしました。そういえば「代書屋」という落語がありましたっけ。でもこちらは笑い飛ばすようなものではなく、「手紙の力」というようなものを感じさせてくれる内容です。

一作目、バイト先に客で来る女性に思いを伝える手紙を代筆、その後女性側からの返信の代筆。双方から代筆を頼まれてしまうなんておもしろいストーリーです。代筆で成就したカップル、「代筆がばれたらどうなってしまうんだろう」なんて余計なことを考えてしまいます。こんなさわりを書くと誤解を受けるかもしれませんが、決しておもしろおかしい内容ではありません。代筆のためには十分に聞き取りをして、依頼主の心に沿って代筆をする、これは大変なことなのだなと思います。しかもそれが受取人の心をうつ手紙、すごいですね。

どこまでが現実でどこからが創作なのかは全くわかりませんが各章のおはなしと手紙、いいですね。あとがきには著者にこの本の依頼が手書きの手紙でされたことが紹介されています。「やはりどうしても今という時代に手紙に纏わる本が必要な気がします」との再度の依頼文、若い編集者の情熱のこもった手紙が著者の心を動かしこの本が生まれたのだそうです。

一路 (上・下)

一路一路 (上・下)
浅田次郎
中公文庫

これもテレビドラマを観て読みたくなった作品です。

西美濃・田名部郡の小野寺家は代々主家の参勤交代を取り仕切る家柄。江戸で成長した小野寺一路は父の急死で田名部に呼び戻され、すぐに出立する参勤交代を仕切ることに。引き継ぎなどないはじめての仕事に、はるか祖先が残した行軍録だけをたよりに古式の参勤交代をすすめる。お殿様を陥れようとする重臣も同道する中、いくつもの苦難を乗り越えて江戸まで。そんなストーリーです。

今までスポットライトを浴びることのなかった参勤交代を題材として作品を仕上げるのには膨大な量の資料を読みあさったのでしょうね。作家さんのそういう熱意、感心するばかり。参勤交代といえば東海道、そして川渡しを思い浮かべます。そのやっかいな川渡しを避けて中山道を使った大名も多かったとか、二大名が同じところに投宿するときの上下関係とか、「そうなんだ」と知らなかったこと満載です。でもストーリーがちょっと短絡的なところがあったり、馬の会話などおちゃらけがあったり、都知事選ではないけれど「後出しジャンケン」という言葉を思わせるようなところも・・・・。読後の満足感は残念ながらイマイチ、かな。

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藤沢周平 父の周辺

藤沢周平_父の周辺藤沢周平 父の周辺
遠藤展子
文藝春秋

 先日、テレビドラマ『ふつうが一番 〜作家・藤沢周平 父の一言〜』を見ました。おもしろいドラマで原作を読みたくなり、図書館で借りました。

内容は娘から見た父・藤沢周平といった感じのエッセイ。この作家の飾らない日常の姿が描かれています。ドラマはこの本の中のほんの一部、原作からアレンジしているところもみられました。佐藤B作が親戚の問題児(?)として登場しましたが、原作にはそれらしい人物は登場しなかったな。母が主人公の反抗に「出て行きなさい」、主人公の家出、・・・・の部分、父が母に向けたきつい言葉を祖母が最後に窘めるようなところ、原作にはありませんでした。エッセイは淡々と語られていますがドラマはさすがにドラマチックにアレンジされていますね。ドラマは父の直木賞受賞で終わっているのですが、原作はさらにさらに続きます。

藤沢周平は私にとって好きな作家の一人で、読みあさった時期もありました。時代物、特に地位も低く貧しいけれども腕は立つという江戸期の武士を描いた作品、印象深いですね。藤沢周平の郷里である山形:鶴岡を舞台にしていることが多いようです。代表作は私の中では「蝉しぐれ」かな。はじめて山形を訪れたとき、この作品を電車旅の友に持って行ったのも何かの因縁(ちょっと大げさかな)。江戸期の女性を多く登場させるのに、家族に「女性の名前をたくさん知りたいと言われ、電話帳で片っ端から女性の名前を書き出して渡した」なんていう裏話などなど興味深く読みました。

藤沢周平ファンならおすすめですよ。

向田理髪店

向田理髪店向田理髪店
奥田英朗
光文社

 舞台は北海道のある町、かつては炭坑の町としてにぎわったが財政破綻の町。そんな町で理髪店を営む50歳代の男性が主人公。

 人口が減り理髪店の客も限られる。先行き不安のなか札幌で働いていた長男が理髪店を継ぐと言って戻り、若者達で地域を盛り上げるというが素直に喜べない。この仕事ならではの人と人との交流があり、地域やその家庭の課題にかかわっていく。問題がスッキリと解決するわけではないが、描かれている人の関わりが温かです。最後は若者達の考えにこのまちの未来も捨てたものではないなと思えてくる、そんなお話しでした。

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夏の夜の夢・あらし

夏の夜の夢

夏の夜の夢・あらし
シェイクスピア
福田恆存 訳
新潮文庫

若者たちがシェークスピアの「夏の夜の夢」で読書会をすると聞き、それならばと久しぶりに借りて読みました。妖精の魔法の為に恋愛関係が複雑に、でも最後はハッピーエンド、おもしろい戯曲でした。一つ気づいたのは、一人だけ最後まで魔法が解けずにこれで全てが丸く収まったこと。ま、終わりよければいいのかな。
続けて収録されていた「あらし」はじめて読んだ作品です。弟に王位を奪われて孤島に追われたミラノ公が復習?とリア王を思わせるような設定。最後は寛大な心でうまく収まる内容でした。

しばらく前、以前よく読んだ水上勉の本が図書館の図書整理のため手に入ったのですが、久しぶりに読んでみると以前のようには入り込めないんですよね。こうして時代が変わり、多くの作家は読まれなくなっていくのでしょうか。シェークスピアもかつては何作も読んだのですが、「今読んでも同じように楽しめるものかどうか?」との思いが不安もありました。でも久しぶりに楽しんだ古典でした。

日本人の耳をひらく

日本人の耳をひらく日本人の耳をひらく
聴覚がもっている不思議な力
傳田文夫
祥伝社

 ネットで「耳をひらく」というキーワードで検索するとこの本の名前がヒットします。長いことそれを見ていたのですが、我々の間で使われた「耳をひらく」という言葉とは関係がなさそうだと深入りせずにいました。ところが先日知り合いからこの本をいただきましたので早速読んでみました。

我々の生活は騒音・雑音があふれている。それを無意識に聞いているが、改めないと・・・・といったことがわかりやすくていねいに説明されていました。それから日本語特有のリズムが日本人の音楽やらスポーツやらいろいろなところに影響を及ぼしていることも、この本の中の大きなテーマでした。でも文中に「耳をひらく」ということばが登場するわけではありません。どうやら「耳をひらく」ということばが著書の内容をうまく表す表題として使われたようです。

書かれている内容はなるほどなるほどと頷けることばかりです。でも私達にとって音楽する上で特別な意味合いをもっている「耳をひらく」ということばが全く違う理性的なところで使われているようで、どうしても違和感が残ってしまいます。

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「クロイツァーの肖像」

クロイツァーの肖像クロイツァーの肖像
日本の音楽界を育てたピアニスト
萩谷由喜子
ヤマハミュージックメディア

 甲府の大きな書店で見つけ、購入しました。私はかなりのクロイツァー・ファンですから、こういう本を見つけるとうれしくなってしまいます。表装も気に入りました。

ロシア革命、ドイツの戦争と歴史に翻弄され、ロシアからドイツの楽壇での活躍を経て日本に渡ってきたクロイツァー、でも日本でも十分な活躍の場を与えられたわけではないようです。さらにはドイツと同盟を結んでいた日本でのこと、ユダヤ系のクロイツァーには社会から隔離されるなど試練の時期があったそうです。でも戦後も日本に残って音楽界を育てたクロイツァー、日本を愛していたんでしょうね。

最終章はクロイツァー没後の豊子夫人のこと、この本の執筆のきっかけはクロイツァー夫妻の養女涼子さんの依頼によるとのこと、その依頼の中には「豊子夫人のことも書いて欲しい」ということもあったのだそうです。先日、知り合いから豊子夫人のCDを聞かせていただきました。「クロイツァーを尊敬し信頼してたんだろうな」と頭をよぎりました。

一読してみませんか?

光を失って心が見えた

光を失って心が見えた

光を失って心が見えた
全盲先生のメッセージ
新井淑則
金の星社

全盲の中学校教師が、発病から視力を失い、それでも仕事復帰を目指した自らの記録です。入退院を繰り返すと当然のように転勤を強いられ、視力を失ってしまうとこの仕事は無理と判断してしまう社会。仕事復帰の当初は職場での盲導犬の利用を禁じられたり、ハンディを持った人への社会の理不尽さを感じることは沢山あるようです。一方で支えてくれる多くの人がいたり、でも何よりも著者の心の強さに感心させられます。
終盤は著者から中学生へのメッセージが綴られているように感じました。

 

わが心のジェニファー

わが心のジェニファー

わが心のジェニファー
浅田次郎
小学館

 主人公は祖父母に育てられたアメリカ人青年。祖母はすでに亡くなり、大の日本人嫌いの軍人だった祖父は介護施設暮らし。そんな主人公の恋人は日本通で、プロポーズ承諾の条件として日本を見てくることを約束される。そんなことから始まるアメリカ人青年の日本一人旅、異なる文化を持った人の視点でみた日本はおもしろくもあります。かつて「パパラギ」という南国の酋長が来日して日本の社会を風刺的にとらえた本があったのを思い出しました。軽い読み物、かな。

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出世花

出世花出世花
高田郁
角川春樹事務所

 みをつくし料理帖も読み進めていよいよ残り少なくなってくると一気に読んでしまうのが惜しくなり、同じ高田郁さんのこの著書を借りてみました。
主人公は寺に住む若い女性、死体を洗い清め来世に送る湯灌という仕事をし、その仕事ぶりから「三昧聖」と呼ばれている。多分「みをつくし料理帖」が生まれる前のこの著者の出世作、仕事に生きる女性を描いていて非常に共通しているものがあるように思える作品です。文中に「出世花」というタイトルとした理由らしきことが載っていたのですが、このあたりは私の理解力がついていけない感じです。何年か前「おくりびと」という映画がヒットしましたが、それをも思い起こさせる内容でもあります。こういう仕事に生きる魅力的な女性をこの作品でもうまく描いているなと思いました。