「ありがとう」
○○○○
今、私は思う。休暇をとり合宿に参加してよ
かったと。いや、それだけではない。私の人生
の一夏を飾るにふさわしい思い出ができたと。
それが何故か、何であるかといわれても、私は
それを言葉で表現することはできない。ただ幸
福な三日間であったとしかいえない。暑い最中
に、役所では仕事に励むことも尊いとは思うが、
それ以上に本栖湖での生活は、私に人生の素
晴らしさと尊さを教えてくれたと思っている。少
しは悟ったような考えにさせてくれたのは、富
士を仰ぐ自然の○○しこともあるが、それ以上
に素晴らしき我が仲間達である。彼等が私に特
別な何かをしてくれたわけではないが、しかし、
彼等と起居を共にすることによって、人間の心
がより緊密に通い合ったような気がする。これ
がなくて人生の意義があるだろうか。だから私
は我が仲間に感謝する。幸福な三日間を過ごし
えたのも、本当に彼等のお陰なのだ。ありがと
う。
二日目のキャンプ村における練習は特に印象
深かった。俗世間を離れて清らかな空気の中で
合唱することを考えた時、身震いを覚えた程だっ
た。誰もが経験することのできないあの神聖な
雰囲気(合唱を除外したら多分無意味になって
しまうだろう)に、自分がひたっていることがとり
もなおさず私には幸福感の満喫であったから。
これまでの旅行よりも今回の合宿の方が遙か
に楽しかった。この思いは、千駄ヶ谷体育館前
での合唱にひしひしと喰いこんでいった多分昔
も同じだったのだろう。「夕焼け」の素晴らしかっ
たこと。そしていつまでもハミングが続いていっ
た。短い期間ではあったが、あの楽しさをそし
てその余韻を胸に留めようと私もハミングを続
けた。
ただ一つ、心残りがある。この「夕焼け」を本
栖湖でハモレなかったことだ。でもそんなことは
私の幸福感に比べればとるに足りないことだと
思う。
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みちのく第3号(1964年?発行)より
「ありがとう」
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