「大地に歌は消えない」
ウイリアム・H・アームストロング作
清水真砂子訳
大日本図書
訳者が主人公モーゼスについて「つねに神の御心のままに、自然を愛し、その語る声に耳を傾け、自らも大地と語らい、からだを動かし、道具を使ってさまざまなものをその手からつくりだし、そして道具の一つ一つをたいせつに、命あるもののように扱う」と後書きで語っています。そのモーゼスの生活が静かに語られていきます。差別の中にあっても信仰から来る安心をもった人の強さを静かに描いているという印象です。
母を亡くして満たされないストーン家の兄妹が、モーゼスが来て徐々に満たされていく、穏やかな時が流れているような前半。しかし後半は一転して不合理な人種差別から最後にはモーゼスがいのちを落としてしまう。この悲劇の結末はかつてあった非道な差別を現代の私達に訴えかけているようです。ゲド戦記の訳で有名な清水真砂子さんが私達日本人に伝えたい強い気持ちで翻訳されたのだろうと思いました。
この小説を読みながら、アフリカから連れてこられ奴隷生活・人種差別の中で信仰をもった人たちの歌「黒人霊歌」の「Deep River」などが想い浮かびました。
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