砂山

 鉄骨の中に満月を見てひとり
 俳句を習い始めて、最初に二重丸を頂戴したのがこの句である。ビルの工事現場に立って、なんとなく句になりそうな風情を感じて詠んだものであるから、技巧は少しも用いていない。これまで俳句の良さなど少しも解しなかったのであるが、実際に作句してその楽しさがわかるようになってきた。
 コーラスについても同様である。聴くことによって背筋の震えを覚えるだけだったのが、ハーモニーを創造する側に立って、コーラスの本当の楽しさを体得したといえる。ソロと違い、幾人もの人間が自己を抑え歌い乍らも、そこから生れるもは、個人を超越した言葉では表現できない素晴らしい音楽なのである。この味を一度でも感じた人ならば、きっとコーラスの虫になるのではなかろうか。練習日を迎えるまで、一人ではどうにもならないもどかしさを感ずる今日この頃である。秋の夜更けに「砂山」を口ずさみつつ。
                              (以上、「みちのく」第1号より)

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