高校の合唱

 1年生の頃、私はクラブに所属せずにいました。芸術の授業の選択も書道であった私は、音楽のN先生との接点も全くなかったのです。しかし、クラスメイトのHさんが合唱部に所属しており、その楽しげな様子に関心をもっていたのだろうと思います。
 私たちが1年の時の学園祭で合唱部は子ども歌劇「手古那」というのをやっていました。主役の女性「手古那」は女性二人が演じ、途中で入れ替わりました。このころの合唱部は男性3人(いずれも私たちの同級生)、男声が足りないので女声も男性役をして楽しそうに歌っていたのも印象的でした。クラスメイトのHさんは主役的な男性役を演じ、最後には美しい手古那に抱きつくようなシーンがあり、当時の聴衆である高校生を「アッ」といわせたものでした。こうして合唱部が一般高校生の目を惹くことが先生の意図するところであったらしいのです。その成果あってかこのあと合唱部には男性が何人かは入り、2月頃入部した私も含めて男性7人というめずらしい学年になったのです。ただ、私の入部はこの学園祭にはあまり関係なかったようです。記憶はおぼろげなのですが、この若い先生に近づきたいというのが一番の動機であったように思います。
 私たちの学年は合唱としてはめずらしく男声7人と女声より多かったのです。だから時には男声合唱を楽しみました。あのころの古い音楽室の南側にはやはり木造の古い校舎がありました。この校舎の階段の踊り場に行って男声合唱をするとよく響いて気持ちがよかったのです。唱った曲はあの有名な「いざ起て戦人よ」やデューク・エイセスの「日本のうた」、ジョーンズ「希望の島」といったところ。こんなところで男声の響きを体験して、男声合唱へのあこがれが始まったのかもしれません。
 私にとってはわずか1年の経験でしたが、とにかくこのころの合唱は楽しく、全く「歌うことが楽しい」という感じの活動でした。このころのメンバーの歌っている姿は、はた目にも本当に楽しそうに見えたそうです。「コンクールに向けてガリガリと」なんていう合唱でなく、とにかく歌うことを楽しむ、そんな活動は合唱としては未熟だったのでしょうが、ただただ楽しい思い出です。特定の方向に凝り固まることなく、のびのびと音楽を楽しむというよい方向に導いていただいたのかもしれません。
(19.0k CT)

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