特集 “野の花”のごとく (その10)

   「聞いてきいて・・・・・・」
 増田さんが高二のころだったか、森山先生の担当する音楽の授業が、急にようすがいままでとはちがったものになったことがあった。それからである。森山先生の「聞いてきいて-」がはじまったのは。
 森山三郎氏という人は、分離唱への情熱のカタマリみたいな人だということである。南高OBの合唱が美しく育ったというのも、森山氏の指導力と人柄によるものであった。
 もっとこまかくいうと、前に紹介した田島義久さんの力も彼らを育てるのに大きい力となっているのだ。佐々木氏も増田さんも、この田島さんを、すはらしい音楽的な耳のもちぬしだ、と評する。この田島さんは山形市のトヨタ自動車に勤めるかたわら、森山先生といっしょに、OBの育成指導にあたっている人だ。
 さて、森山先生には音楽教育者としての、強い信条がある。
 -情操教育のなんのと音楽が引きあいにだされるが、情操教育のために音楽を手段にするというのは、話が逆である。正しい音楽教育が正しく行なわれて、はじめて真の情操が育ちうるものだ、ということだ。
 だから、教育者としての森山氏は、正しいとおもう音楽教育に関しては、積極的に行動に移した。佐々木基之氏との出合い。その後の教室での、森山氏の心境の変化。それらはこういう森山氏の情熱の端的なあらわれの一例でもあろう。
 山形南高OB合唱団の生いたちを物語るには、この二人の出合いも決して無関係なことではなさそうだ。なぜといって、この出合いがあったればこそ、みちのくの彼方に、かくも美しい野の花が開く結果にもなったのだから。

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