特集 “野の花”のごとく (その7)

   増田青年の情熱(続・続・続)
 増田さんと、OBの連中の話をもう少ししよう。コーラス部での音感教育で得をした話。
 増田さんは、高校当時は、それほどめぐまれた生活環境ではなかったという。そこでアルバイトをおもいついた。それは、映画の宣伝のためのチソドン屋であった。
 さいわい学校にはプラスバンド用に楽器がおいてあった。さきほどの五人組といっしょに、それぞれトロンボーン、クラリネット、トランペット、ドラム。増田さんはバリトンといった編成だ、映画スターのお面をつけ、背には大版のビラをはためかせて、「銀座カンカン娘」も高らかに市内をねり歩いた。数カ月もつづいたこのアルバイトは、結構ギャラにはなったそうだ。
 そこで、得をしたというのは、このチンドン屋諸君が、米沢市のある節からの招きで出張演奏をやったときのことだ。多少はいじりなれた楽器でもあったが、譜面があればなんとかなるものの、商売となれぼ、その譜面さえない。わがままはいってはいられない。なんとかかんとか、和音を追っかけなければならない。聞いたこともない流行歌の、またなんとたくさんあることか。純情な彼らは、一生懸命に、音感教育を実地に学んだ。そして冷汗をかきかき、コーラス部での経験が、かくも生かされようとは思わなかったと語りあったそうである。

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