不思議な体験

 木下航志のコンサートの当日、私はほかの音楽の集まりに参加していた。佐々木先生のご家族を中心とした合唱の集まりである。

 この日は賛美歌をはじめとするアカペラの合唱曲を長い時間歌った後、最後に手書きの楽譜のコピーが配布された。「これ、やりましょう」という曲はピアノ伴奏つきのフォーレの曲「ラシーヌ讃歌」だった。学生時代に先生の指導を受けた中では古いOBに属する私は、この曲の録音を聴いた覚えはあるが唱うことはできない。先生の娘さんがピアノの前に座り、この曲の練習がはじまった。しばらく前奏があり、その後合唱がはじまる。私は唱うことができないが、「あー、娘さんのピアノが聴ける。ラッキー!」と楽しみな軽い気持ちで聴きだした。しかし前奏が始まってすぐ、少し目が潤んだかと思うと、そのあとどっとあふれるように涙が湧いてきた。

 音楽の感動というのは心で感じ、感性で感じる。そういうものを自身の認識の上で感じ取れるものだと思っていた。しかし今回の私の反応は、私の心や感性が感じて涙が出たのではなく、まったく自分の意識を素通りして、そのピアノの演奏にいきなり身体が反応しいきなり涙が湧いてきたととでもいうべきものだった。今までに経験したことのない私自身の反応に私自身が驚いている。

(8.5kCT)

不思議な体験」への2件のフィードバック

  1. クリス

    そうだったんですか~!あの時、涙してたんですね~!
    「あー、娘さんのピアノが聴ける。ラッキー!」
    その気持ち良く分かります。(笑)
    でも、お姉さんのピアノ、本当に素敵でしたね。
    聴きなれていた録音の演奏とはまた違った味わい
    で弾かれていて、
    「ああ、本当にその時その時、新鮮に音楽を感じて
    弾いているんだな~」
    と思いました。
    またぜひ、いらして下さいね。

    返信
  2. すすき

    クリスさん、コメントありがとうございます。
    近くの視力に難が生じてきているこの頃、涙腺もゆるんできているんでしょうかね。(笑)
    とにかく私としては不思議な体験でした。
    全身を耳にして唱う感覚、いいですよね。また仲間に入れてください。

    返信

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