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「大地に歌は消えない」

大地に歌は消えない「大地に歌は消えない」
ウイリアム・H・アームストロング作
清水真砂子訳
大日本図書

訳者が主人公モーゼスについて「つねに神の御心のままに、自然を愛し、その語る声に耳を傾け、自らも大地と語らい、からだを動かし、道具を使ってさまざまなものをその手からつくりだし、そして道具の一つ一つをたいせつに、命あるもののように扱う」と後書きで語っています。そのモーゼスの生活が静かに語られていきます。差別の中にあっても信仰から来る安心をもった人の強さを静かに描いているという印象です。

母を亡くして満たされないストーン家の兄妹が、モーゼスが来て徐々に満たされていく、穏やかな時が流れているような前半。しかし後半は一転して不合理な人種差別から最後にはモーゼスがいのちを落としてしまう。この悲劇の結末はかつてあった非道な差別を現代の私達に訴えかけているようです。ゲド戦記の訳で有名な清水真砂子さんが私達日本人に伝えたい強い気持ちで翻訳されたのだろうと思いました。

この小説を読みながら、アフリカから連れてこられ奴隷生活・人種差別の中で信仰をもった人たちの歌「黒人霊歌」の「Deep River」などが想い浮かびました。

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「市塵」

「市塵」
藤沢周平
講談社文庫

新井白石という人物にスポットを当てた小説。学校の歴史のなかではそういう名前の儒者がいたという程度のことしか学んだ覚えがありませんでした。「生類憐れみの令」などの悪政で有名な徳川5代将軍綱吉、その後を受けた6代家宣の政策顧問のような立場で政治改革をすすめた人物として白石が描かれています。自分自身にあまり知識のない歴史上の人物についての小説、新鮮です。数々の改革について淡々と語られていく感じで、藤沢さん特有の素晴らしい自然描写や人々の描写が少々弱い感じもしました。でも終盤権力の座から降りてその悲哀を感じていく辺りにはいつもの藤沢さんらしい魅力を感じました。

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「そして、バトンは渡された」

そしてバトンは渡されたそして、バトンは渡された
瀬尾まいこ
文藝春秋

実の父母から血のつながらない親へと次々と環境の変わってきた主人公:森宮優子。でもバトンを渡されたそれぞれの親が主人公を暖かく見守り育てていく。非現実的ではあるけれど、やさしさのリレーでじんわりと温かいおはなしでした。

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「玄鳥さりて」

玄鳥さりて玄鳥さりて
葉室 麟
新潮社

樋口六郎兵衛と主人公:三浦圭吾は道場の天狗・隼とよばれる同門で凄腕の先輩・後輩。六郎兵衛は何かと圭吾を支えてくれるが、圭吾は順風満帆で権力に近づいていく。そんな主人公が次第に六郎兵衛を信じられなくなっていく。権力を得て大事なものを見失っていく主人公と不遇でありながら武士道を貫いていく六郎兵衛をうまく描いているなと思いました。

「墨攻」

墨攻「墨攻」
山本甲士
小学館

はじめて読む作家です。

2300年前、秦中国を統一する前の諸国が争っていた戦国時代の中国が舞台。七国の一つ趙が攻めようとした燕の小さな城郭を、反侵略の思想を持った墨家の革離が請われてこの城郭を守り抜こうとするおはなし。戦うのでは守り抜くという思想、武人だけでなく一般市民をも巻き込んで信頼を得、結束力を高めて敵の攻めをしのいでいくこの物語の世界に引き込まれます。外壁の修理のために内側の王宮の壁を壊してそのレンガを使うところなんか痛快でした。これも一気読みできるおもしろさです。

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「蜜蜂と遠雷」

蜜蜂と遠雷「蜜蜂と遠雷」
恩田 陸
幻冬舎

2016年下期の直木賞受賞作です。そういえば書店等でよく見てましたね。

3年ごとに開催される芳ヶ江国際ピアノコンクールが舞台。ここに参加するピアニストの同行者、審査員、調律師、ステージマネージャーの心も織り交ぜながらピアニスト4人の背景、心の動きを描いていきます。既成の枠に収まらない自然児的な少年ピアニストの奔放な振る舞いや少女時代に名を馳せ挫折も味わった女性ピアニストが徐々に音楽を取り戻し予選から本選に駆け上がっていく様子が印象的でした。音楽を題材にこんなに物語がかけてしまうんだなと感心してしまいます。おもしろかった~!

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「あきない世傳金と銀5」

あきない世傳金と銀5「あきない世傳金と銀5」
転流編
高田 郁
角川春樹事務所

6ヶ月毎に発表されるこのシリーズの2月に発売された5作目、早く読みたかったのですが希望図書を出して図書館で購入してくれたものを順番を待ってやっと読むことが出来ました。
先へ先へと読みたくなる著者の構成力・文章力、さすがです。今回は主人公:幸(さち)の呉服商「五鈴屋」が自身よりも大店の桔梗屋を買収するところから。新しい支店をうまく回し着けて更に帯地を絡めた商売へ、新しい商品を歌舞伎座の興業にからめて売り込むところなどわくわくしました。
あっという間に読み終えてしまいました、次作はいよいよ江戸進出のようです。でも次作の発売はどうやら1年後、待ち遠しいな~。

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「つゆのひぬま」

つゆのひぬま「つゆのひぬま」
山本周五郎
新潮文庫

9つの短編からなる一冊、最後の「陽気な客」はちょっとついて行けない感じもありましたが他の作品はいずれも最後はほんのりと心温まる作品です。短編集を読んだ後の読後感て難しいですが、一作目の「武家草鞋」についてすこしだけ。藩の政争のすえ藩を離れなくてはならなくなった主人公、武家草鞋をつくって生活の糧にしている愚直な主人公が、最後には作った草鞋がもとの主家に使える道に導いてくれる話、短編ながらいい話でした。

「運命の騎士」

運命の騎士「運命の騎士」
ローズマリ・サトクリフ
猪熊葉子訳

11世紀のイギリスが舞台の児童文学、犬飼の孤児ランダルが騎士となるまでの物語です。騎士というのは一種の領地まで与えられたその地の有力者なのですね。一人の人物の呼び方がいろいろだったりオリジナルから日本語で書かれたものとは違う読みにくさがあったりしましたが、読み進めていくともう物語の世界に引き込まれていきます。チェスの勝負で冷酷な領主から引き取ってくれた楽士エルルアン、そこからまた引き取ってくれた騎士ダグイヨン、その孫のベービスとの友情、将来の伴侶となりそうな女性との出会いなど、魅力的な場面がたくさんありました。

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「バッタを倒しにアフリカへ」

バッタを倒しにアフリカへバッタを倒しにアフリカへ
前野ウルド浩太郎
光文社新書

学者というのは定職に就くのがむずかしいらしい。ましてや昆虫学というマイナーな学問では・・・・。筆者は「ファーブル昆虫記」を著したファーブルを尊敬する昆虫学者・バッタ学者。バッタといえば大発生で農作物に被害をもたらす昆虫。そんなバッタの研究も研究室内で実験的にとったデータをもとに論文を書かれることが多いのだとか。でも、筆者は果敢にバッタ大発生の地アフリカ:モーリタニアへ、そしてフィールドワークで得られるデータからの研究を目指します。研究のためのスタッフを雇いチームを編成する苦労、フィールドワークが自然条件に左右されて思うように進まない事態など苦難の数々。バッタの生態を研究する「生物学者の生態」を著した本、面白かった。

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