舞台はアメリカ、両親を亡くした幼い男の子が先住民族の祖父母にひきとられ育てられる。後からやってきた白人に生きてきた土地を奪われ追われても、独自の文化を持ちながら生きている祖父母の下で男の子も生き、そしてまた新しい文化を強制されていく悲しみを味わいながら成長していくおはなし、静かに語られていながら心に残る物語でした。
北海道のアイヌの人たちや沖縄の人たちもこんな悲しみの歴史があるのかもしれません。
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「傑作はまだ」
瀬尾まいこ
ソニー・ミュージックエンタテインメント
瀬尾まいこさんの作品、今年本屋対象を受賞した「そしてバトンは渡された」では次々と変わる血のつながりのない親に育てられ、でもそこにあたたかいものが流れているような作品でした。その前には「春、戻る」で和菓子屋に嫁入りが決まっているヒロインの下に血の繋がらない、しかも年下の「お兄ちゃん」が現れ、過去に心の傷をもったヒロインの心を温め後押ししてくれるような小説がありました。今度の作品はそこそこ売れている小説家、一人暮らしで社会とのつながりをほとんど持たずに小説を書き続けている主人公、そこに突然実の息子が「はじめまして!」と登場する。そんな不思議なおはなしに「またこのパターンかよ!」と思ってしまう始まりでした。そんな気持ちで読み始めた作品ですが、引き込まれてしまいました。「あり得ない」感も強かったのですが最後にはほんのり「よかったね。」と思えるようなおはなし、さすが瀬尾まいこさんです。
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「サイド・トラック」
-走るのがニガテなぼくのランニング日記-
ダイアナ・ハーモン・アシャー作
武富博子訳
評論社
今年の中学生向け夏休み課題図書の一冊です。
発達障害のひとつ:ADD(注意欠陥障害)を抱えている主人公:ジョセフはアメリカの中学2年生、T先生に勧められて陸上部に入りクロスカントリーを始めます。通級指導教室という障害をもった子達が学ぶ教室があったり、部活動のあり方が日本と大分違うことも感じます(その種目に優れている子が集まるわけではないらしい)。障害を持っている子に対しての偏見やいじめがあり、そして応援してくれる友だちや先生なども登場し、学校の仕組みは違っても私たちの日本の環境に置き換えて主人公になりきって読む事ができます。普段の生活にも、そして与えられた距離を走り切るにも障害がある事を読んでいる私たちが理解していきます。私たちにも発達障害というものを学習する機会は多くありますが、この小説では障害を持っている主人公になりきって見つめていくことで、知識ではなくこうした子どもたちを支援する心を養ってくれる本だなと感じました。
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「居酒屋ぼったくり」
秋川滝美
アルファポリス
写真を撮らずに返却してしまいました。
若い店主:美音(みね)が亡くなった父の後を継いだ居酒屋の名は「ぼったくり」。父は「誰でも買えるような酒や、どこの家庭でもでてくるような料理で金を取るうちの店は、もうそれだけでぼったくり」と呟いていたら常連客が「それならいっそ店名を『ぼったくり』にしてしまえ。」とついた名前。でもこの店名に反して出される料理も酒もおいしくて料金は良心的。常連客が集い、人情味あふれる小さな話が料理と共に出されてくる。ふらりとやってきた新しい男客も度々訪れるようになってきて、これから主人公との関係も気になります。すでにシリーズは10作ほどになっているようで、2作目以降も続けて読んでみようと思います。
前作「神様のカルテ」シリーズの最後は主人公:一止が大学病院に戻ることを決意したところで終わっていましたが、今回はその続きで大学病院編といったところ。
大学病院での一止の立場は院生、安い報酬で診療・手術・地方病院への出張医療をこなし、その間に医学的な実験・論文書きと超過密スケジュール。高度医療を行ないながら地域医療を支える中核病院としての使命と、ベッド数の制約等現実との矛盾をかかえながらも人間味豊かな一止と彼をとりまく医師・看護師たちの奮闘が語られます。障害を持った一児の父となっての愛妻との家庭生活、おんぼろアパート御岳荘の存続をかけた住人達とのやりとり、そして多くの個性豊かな登場人物を一止がつけたユニークなあだ名で語っていくのも面白い。重い膵ガン患者の強い意志に寄り添って独断で行う治療、そして最後はちょっと嬉しいどんでん返し。この本もお薦めですよ。
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