この喜び

この喜び
                              
 誰に告げよう門限を気にしなくてよくなったこのよろこびを・・・・。
きっと誰もこの私の気持を理解してくれないだろうと一人合点をしてたのはうかつだった。
時は三月二十二日「ひし川」の二階で一同は退寮した私を拍手で祝ってくれた。私はこの拍手に興奮で染まった頬に手をあて返す言葉もなくうなだれた。想えば日曜の夜は時間との戦いだった。歩いて十分の距離を四分で走らなければならないのだ。高校の運動会以来全力疾走を味わっていない私は痛む横腹を押さえながらことされ肩に重くなってくるオーバーを気にしつつ走ったものだった。私の靴音を背に受けて前を歩いていた人が路を広くあけてくれた事もあった。家の玄関に着くや乱れた呼吸を整え青ざめた顔色を気にしつつ遅れた理由を云うべく舎監室のドアをノックするのが常だった。舎監は『以後この様な事のない様十分注意しなさい』と言葉少なに言うだけだった。副寮生長という立場にあった私はこの模範ならざる自分の行動を恥じ何度その役を辞退しようとしたことか・・・・・・・
でも退寮した現在心ゆくまで時間を気にする事なく心を入れてうたう事が出来る事は本当に大きな喜びです。
 この体験は私にとってマイナスではなかったと思ってます。
たとへ退寮したにせよ寮に居た時と同様規律正しい生活を送りたいと思ってます。
                               以上、「みちのく」第2号より
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 週1回夜行われる合唱の練習、寮の門限を気にしながらもギリギリの時間まで練習して飛び帰る。舎監さんに度々怒られながらも毎回のように・・・・、そして退寮。合唱がこの方の心を捉えていたんですね。そんな合唱への思い、心に占める大きな存在、うらやましくもあります。
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