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「慟哭は聴こえない」

慟哭は聞こえない

「慟哭は聴こえない」
丸山正樹
東京創元社

 「デフ・ヴォイス」シリーズの3作目です。主人公は家族の中でただ一人「聞こえる」人、手話と音声日本語両方を使いこなし手話通訳を仕事としている。本書は4話で構成されており、生命を授かった女性が医療を受けることの困難さや、モデルの男性に対してそのマネージメント・スタッフの期待する姿とのずれ、障害者雇用をしながらその働く環境についての約束を果たさない会社に対して女性が起こした訴訟にかかわることなど、聴力障害の方たちの抱える不合理さに手話通訳としてかかわっていく主人公の姿が描かれています。
第3話では不審死を遂げた人物の身元を調べる中でろう者であったことがわかり、その人物のTVに移ろうとしていた映像記録からその背景を探っていくおはなし。瀬戸内海の小島に残るローカルな手話が登場し、漁師の間で聴力の有無を超えて手話で意思疎通が行われていたその土地の文化にも驚かされました。著者が伝えたいことがこんなところに凝縮されているのかな。

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「デフ・ヴォイス」

デフ・ヴォイス

「デフ・ヴォイス」
丸山正樹
文春文庫

 荒井尚人は両親・兄との4人家族、ろう者(聞こえない人)の中で彼一人がコーダ(聞こえる人)という環境で育った。家族の中での意思疎通は日本手話、そして家族で外に出たときには尚人が通訳を務めてきた。警察職員であった尚人は組織内部の裏金作りに関わせられて内部告発、退職した経歴をもつ。
手話通訳の仕事をとおしてろう者に寄り添う人たちに近づいていく尚人。そんな中でおきる殺人事件に、警察時代に関わったことのあるろう者が容疑者として浮かんでいることを知る。そしてコーダだからこそできる手話通訳者として事件の謎解きが始まる。
警察の取り調べでも裁判の法廷内でも容疑者であるろう者は十分な意思表示や受ける言葉の理解で不利な立場に立たされてきたことを思い知らされます。そしてコーダの人が家族の中でも抱えている孤立感も繊細に表現されていて、聞こえる人聞こえない人の間に存在する様々な障壁や偏見などを見事に描いた作品でした。

「青天を衝け」

青天を衝け3「青天を衝け」
大森美香 昨
豊田美加 ノベライズ
NHK出版

 今年のNHK大河ドラマ「青天を衝け」、名前を知っている程度の渋沢栄一の一生を描いたドラマはなかなか興味深く原作も読んでみようかとおもったのですが、原作はないのですね。でもドラマからノベライズされたこの書を図書館で見つけて読み始めました。ドラマの方が元だけあって、読んでいても好印象のドラマそのもの観があります。俳優さん演じる人物を頭に描きながら読む小説もいいものですよ。

最終4冊目は発売されたかな、続きを読まなければ。

「あかね空」

あかね空「あかね空」
山本一力
文藝春秋

 映画「あかね空」を見て原作を読みたいなと思っていました。

京の豆腐屋で修行をし江戸へ出てきた栄吉が長屋でおふみとともに豆腐屋をはじめて、やがて店を大きくしていき二代目に引き継いでいく物語。源治・おふみ父娘をはじめ長屋の人たちや一人息子を誘拐された豆腐屋の相州屋夫婦の助力など人のつながりの中で商売を太らせていく。栄吉・おふみ夫婦は二男一女に恵まれるが、子の成長に伴い家族に不和も・・・・。

映画にはほとんど登場しなかったと思うのですが、次男の伴侶となる女性の存在もまたいいなと思いました。

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「櫓太鼓がきこえる」

櫓太鼓がきこえる「櫓太鼓がきこえる」
鈴村ふみ
集英社

 大相撲新米呼び出し:篤の物語。篤は高校を不登校の末中退してしまい両親との関係も冷えてしまった末に、大の相撲ファンである叔父のすすめで大相撲朝霧部屋の呼び出し見習いとして入門した。我々の多くが知らない大相撲の下積みの世界、まだ関取も誕生していない弱小部屋、そこにもけがに見舞われたり悩んだり、ちゃんこ番をしたり引退していく兄弟子がいたり、そして裏方とも言える呼び出し仲間。そんなところでもそれぞれの人の物語があり引き込まれてしまいます。
大きな挫折を味わった主人公が新たな世界を歩き出し、この世界で生きる地歩を固めて将来が開けていくような一年間のお話、よかったな。

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「人生で大事なことはみんなゴリラから教わった」

みんなゴリラから教わった

人生で大事なことはみんなゴリラから教わった
山極寿一
家の光協会

 著者は霊長類の研究者で、アフリカに渡ってゴリラの群れに近づき、信頼関係を築いて観察した結果としてこの本を著している。ゴリラはことばは持たないが遊び好きで笑ったりもする。家族社会をつくり平和を愛し争いには仲裁に入るなど、序列社会をつくってしまうサルとは随分性格が異なるという。身体にハンディがあっても決していじめは起こらず、助け合い、ハンディを持ちつつも立派な大人に成長していくという。我々人間が見失ってしまったかもしれないよい意味の「人間らしさ」をゴリラの生活から学ぶことができる。

「人形の旅立ち」

人形の旅立ち

「人形の旅立ち」
長谷川摂子
福音館書店

20~50ページ程の短編5作品を収めた本。

はっきりとは書いてないのだけれど、作者の子ども時代の心の内を描いた作品なのだろうな。子どもらしい思いこみや妄想、ときには怖いもの見たさも入り交じったような思い出、そして主人公をとりまく情景、なんていいんだろうと思います。第2作「椿の庭」では主人公が柿の木に登って身を潜める場面が出てくるのですが、お尻の下から伝わってくる湿り気、そこで蕗の強い匂いが立ちこめている情景など、読み手にもツーンと匂ってきそうな感覚を覚えてしまいました。

長谷川作品、また読んでみようと思います。

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「ヴァン・ショーをあなたに」

ヴァン・ショーをあなたに

「ヴァン・ショーをあなたに」
近藤史恵
東京創元社

 下町のフレンチレストラン:「ピストロ・パ・マル」を舞台にしたシリーズ2作目。このシリーズは現在第3作まで出ていますが、どうやら逆順に読み始めてしまいました。でもそれには関係なく面白く読めてしまいます。
今回もピストロ・パ・マルに客として来る人物の謎解きが4話、料理を絡めたシェフの謎解きのお話し。料理も謎解きも凄腕のシェフが今回は厨房スタッフの志村さんに叱られているところから物語はスタート、4話目ではシェフの恋のお話し?おたのしみに。残りはシェフのフランスでのフレンチ修行中の出会った人が抱える謎を解くお話しが3話。いずれも出会った人の側の視点でシェフの若き頃が語られていく構成がまた面白い。
残りはシリーズ1作目、これも読まなければ。

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「ペットねずみ大さわぎ」

ペットねずみ大さわぎ

「ペットねずみ大さわぎ」
フィリパ・ピアス
高杉一郎訳

 主人公:ビルは母・義父・妹2人と暮らす少年。友だちからもらい受けたジャービル(ねずみ)2匹をこっそり飼い始め、それが父母に見つかってしまう。兄妹が可愛がるジャービルを母は何とか処分(?)しようとする。そんなジャービルをめぐる家族の思惑とそれによっと巻き起こる事件が面白く描かれている。

作品中ではジャービルに指を噛まれてしまう場面も何度か登場します。病原菌を媒介するような話もあり日本ではねずみを飼うという生活はあまり考えられないのですが、イギリスではペットとしてポピュラーな存在なのでしょうか。そんなことも考えながら、楽しく読了しました。

「清明」

清明

「清明」
隠蔽捜査8
今野 敏
新潮社

 シリーズ8作目の最新作。前作までは警視庁大森警察署長だったキャリアの竜崎、一国一城の主で署が竜崎流の合理主義が浸透しはじめ、ここでの人のつながりも面白くなったところでしたが、今作では人事異動で神奈川県警刑事部長となります。新天地でどうなるんだろうと思いましたが、幼なじみの伊丹警視庁刑事部長との連携、大森署時代のつながりある人も絡んで事件に取り組みます。事件は外国人がらみそして秘密主義の公安がらみ、ここでも竜崎流を貫いて小気味よく事件が解決に向かいます。
シリーズはまだまだ続くんでしょうね。新たなステージでの竜崎の活躍、これからも楽しみです。