「よくがんばりました」
喜多川泰
サンマーク出版
石橋嘉人は妻と中二・小五の子を持つ中学の数学教師で50歳を超えたベテラン、不安を抱える若手の心配を心配するような立場になっている。そんな嘉人に実父が亡くなったとの連絡が遠く愛媛県西条市の警察から入る。父は湊哲治、嘉人が中学生のとき父の余りの所業のひどさに母とともに父の下を去り今は姓も違っている。その母も既に亡く、父の存在は嘉人の心にはほとんどなくなっていたのだが、唯一の肉親として亡き父の下を訪ねる。父の家は嘉人母子が去った当時そのままに、そして今は食べていくのも難しいだろうと思われる貸本屋を続けていたという。冷え切った心のまま父を知る人たちにも別れを告げて帰郷するつもりの嘉人であったが、少しずつ少しずつ家族から見たらどうしようもないと思える父の外での生き様が見え始める。
自分ではどうにもできないほどの強い自己否定感、そんなに極端ではないにしても十分には自己肯定できない人は多いはず、そんな人を力づけてくれるようなお話でした。
嘉人の職場ではコロナ禍で行わなければならないネット授業に悩む教師が描かれている。現代を象徴するような学校の状況、主人公が職場に帰ってきて悩める後輩達にどんなふうに接してくれるのだろ、なんて思ってしまいました。
西条まつりも知りませんでした。ネットでも検索してみましたが、何というだんじりの数、何と勇壮なまつりでしょうか。この地で産まれた作者の、まつりへの強い思いもにじみ出ているんでしょうね。
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