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「雨を活かす」

雨を活かす「雨を活かす」
岩波アクティブ新書104
辰濃和男・村瀬 誠

 我々は生活する中で水道水を大量に消費する一方、雨水は全く利用されずに流してしまっている。水道水は多くの資金と人為により浄化された水、その高価な水を飲用・炊事・洗濯・風呂・トイレ・散水・灌水・洗車にと。しかし飲用・炊事を除けば水道水のように高度に浄化された水でなくても十分なはず。そこで、無料でもたらされる大量の雨水をもっともっと活かして使おうというのが本書の主旨。この中では実際に雨水を貯めて使う方法、先進例、海外での雨水活用等々幅広く紹介され、これから雨水利用を始めようという人にも大いに助けになります。

雨水は基本的には蒸留水できれいなもの、ボトル詰めして飲用に販売している国もある。降り始めの雨はその蒸留水が大気汚染物質を溶かして空気を浄化してくれた有り難い存在。その雨水を「汚い」と蔑む人間の身勝手さ、何で「ありがたい」と思えないのでしょうかね。雨をため始めると「雨は嫌だな」という気持ちから「雨を喜ぶ」気持ちに変化するという。私たちの環境の将来、地球の将来が危ぶまれていますが、ここに紹介されている雨に寄り添った生活こそが私たち人間に求められているのではないでしょうか。

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「巨流再生」

再生巨流「巨流再生」
楡 周平
新潮社

運輸大手のスバル運輸に勤める吉野公啓は営業で次々と新しい提案をし、実績をあげてきた一方で同僚や上司からはけむたがれる存在。直属の上司である営業本部長:三瀬隆司から告げられたのは東京本社第一営業部次長から新規事業開発部部長への辞令。これは新設部署で年間四億の新規取引先開発を課せられ、それが達成できなければ閑職に追われるか自主退職を迫られるかというもの。しかも新部署は事務職員と実績の上がらない若手営業マンとの3人だけ。追い詰められた吉野が創出するのは物流の勢力図を塗り替えてしまうほどのシステムだが、実現には思わぬ壁が・・・・。

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「いのちの十字路」

いのちの十字路

「いのちの十字路」
南杏子
幻冬舎

「いのちの停車場」続編です。
舞台は金沢で訪問診療を行なっている「まほろば診療所」、病院での治療から在宅での治療に変わった患者への訪問診療を行なっている。前作ではアルバイト兼運転手だったが国家試験に合格し今度は医師としてはたらき始めた野呂が主人公。自身がヤングケアラーであったことから、認知症患者や不治の病となったが帰国を望まない漁業の技能実習生、脳梗塞の後遺症をもつ若い母親を介護する女子中学生等々患者やその家族に寄り添って治療に当たる姿が清々しく描かれています。こんなお医者さんに巡り会えたらしあわせ!

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「プラチナタウン」

プラチナタウン「プラチナタウン」
楡周平
祥伝社

 大手総合商社四井商事食糧事業本部穀物取引部部長山崎鉄郎、多くの同期採用者が脱落する中で忙しくも充実した仕事ぶりで社内のエリートコースを歩んでいる。そんな山崎に中学時代の同級生クマケン(熊沢建二)が持ちかけた話は、人口減少の上膨大な借金を抱え市町村合併も蚊帳の外に置かれている町の再生のため故郷緑原町に戻って町長になってくれと言う事。体よく断るはずのこの話だったが、社内で取締本部長八代の縁故採用にかかわるとばっちりで窮地に陥り、やむなく転身を決意。ここから山崎の町を窮地から救い再生に向けての挑戦が始まる。高齢化社会を見据えた夢のあるお話しで面白い。

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「義民が駆ける」

義民が駆ける「義民が駆ける」
藤沢周平
中央公論新社

 江戸時代天保年間に起こった天保義民事件を題材とした小説。

幕府による出羽国荘内(庄内)藩主酒井忠器に対して越後長岡藩への領地替えの命が下る。これは武蔵川越藩と三者による領地替え、川越藩が大奥に取り入って荘内藩の豊かな領地を手に入れ荘内藩酒井家にとっては実質三分の一の禄高に落とされるという理不尽なもの。荘内藩ではこれを避けるべく手を尽くすが、領民もまた領主が変わらぬように動き出す。百姓達は「百姓たりといえども二君に仕えず」を旗印にしたという、そんなきれい事ばかりではないだろうが、それでもこの時代の歴史に刻まれているこの事件に驚きを感じました。

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著者は江戸時代庄内藩であった鶴岡市の出身、この事件を作品として取り上げて見たいとの強い思いがあったのかも知れません。

「青狼記」

青狼記「青狼記」
楡周平
講談社

 大陸(多分中国)で奉金・華漢・宋北・湖朝・楽天の五国が乱立していた。その最も弱小国:楽天は特産の溶光石の各国への供給を戦略的に巧みに供給する事で生き延び、一番の大国:奉金との間で盟約を結び国の存続を図る。その盟約に楽天は忠英、奉金は春申という双方の士族の鑑・国の宝と言われるほど臣・民から信頼と尊敬を集める高官を人質として差し出す。父の後を継いだ忠英の子:趙浚も父同様に国・帝への忠誠を貫き功績をあげていくが、そんな趙浚に対する処遇は大変冷たいもの。
権力者の欲望・身勝手さ・疑い深さの中で義を貫く趙浚の物語。この物語の中で火薬が誕生し戦の仕方に大変革が起こるところ、更にはこの火薬が国主に野望の火を灯してしまうのも面白い。

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「和僑」

和僑「和僑」
楡 周平
祥伝社

過疎高齢化に悩んでいた緑原町は豊かな老後をコンセプトにした老人向け定住施設「プラチナタウン」を誘致して町の活性化に成功した。プラチナタウンは入居者八千人、プラチナタウンが生んだ雇用が六百人。そのお陰で寂れていた商店街も活気を取り戻し、緑原出身者のUターンも増えている。大手総合商社「四井商事」から転身してプラチナタウンを誘致した町長:山崎鉄郎はその功労者、プラチナタウンを拡張して更に活性化を目論もうと圧力が掛かるが、ここだけに頼る危うさに加え将来の高齢者人口減少も見据える山崎には新たな振興策が必要と考えている。意欲的に肉屋と食肉の卸を営む正(しよう)ちゃん(辰野正一)、農協を飛び出し新しい野菜の流通形態を確立した西山圭介、役場産業振興課の若手トコちゃん(工藤登美子)等とともに農畜産物でのアメリカ進出で新しい町の将来を模索するこのお話し、面白かった。

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「百万ドルをとり返せ!」

百万ドルを取り返せ!「百万ドルをとり返せ!」
ジェフリー・アーチャー
永井 淳 訳
新潮文庫

 あくどいことも平気で、一代で身代を築いた億万長者のハーヴェイ。ここでも法の網を潜って自身の持つ実態の怪しい会社株を巧みに操り大儲け。オクスフォード大学の客員研究員のスティーブン、上流階級専門の医師ロビン、画廊経営者のジャン・ピエール、役者を目指していたイギリス貴族の御曹司ジェイムズの四人はその株でまんまと大金を失ってしまう。被害に遭ったこの四人が結束して、法で裁けぬハーヴェイから騙し取られた百万ドルを取り返そうと、それぞれが自身の分野を活かして練ったプランをジェイムズの美人パートナーも加わり結束して遂行していく。果たして百万ドルは取り返せるのか?

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「宙わたる教室」

宙わたる教室

「宙わたる教室」
伊与原 新
文藝春秋

 昨年放送されたドラマ「宙わたる教室」の原作です。

新宿東高校に様々な事情をかかえて集まる生徒は年齢もまた様々。ゴミ収集会社に勤める柳田岳人はディスクレシア(読み書きに困難がある学習障害)を抱える生徒だが、理科や数学には秀でている。一風変わった数学と物理の先生:藤竹はこの学校で科学部をつくることを目論み、更にその先も見据えている。その部員第一号として藤竹が目をつけたのは柳原、そして夫と二人でフィリピン料理店を営む越川アンジェラ、保健室登校を続ける名取佳澄、入院中の妻を抱える金属加工の小さな会社を経営していた74歳の長嶺省造も仲間に加わる。個性豊かな四人が挑むのは「実験室に火星をつくること」。

おもしろいお話しでした。

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「ドッグファイト」

ドッグファイト

楡 周平
角川書店

 大手運送業者コンゴウ運送に勤める郡司は営業部に異動となり、大手取引先の外資系通販会社スイフトの担当となる。スイフトの女性執行役員堀田は大変のやりてだが取引先には非常に厳ししい。コンゴウ運送は仕事は増えても配送料は徹底的にたたかれ利益は全く上がらない上に生鮮品の即日配送という新たな事業に大きな設備投資を迫られる。利益が上がらないのにスイフトの仕事への依存率は高まりがんじがらめ。危機感をもった郡司たちは新たなアイデアで企画を立ち上げる。それは買い物難民を救い、沈滞する商店街を活性化するというもの。

ネット上ではアマゾンとヤマト運輸の戦いを描いているようなことも書かれています。会社のピンチを救い新たな事業展開が始まるお話、痛快です。

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