家内にすすめられて、松居直(まついただし)さんの標記の講演を聴いた。 松居さんの講演は3年ほど前にも一度聴いており、今回は2回目だった。前回の講演の記憶はもうわずかだが、そのはなしに引き込まれた印象は強い。
大学生とのこんな会話が合ったそうだ。
「絵本はひとに読んでもらうものです。」
「大人になってもですか?」
「そうです。」
そして大学生に絵本を読んであげたところ、学生も「絵本てこういうものだったんだ。」と納得したそうだ。
同じ絵本を何度も何度も読んであげる大切さや、素晴らしい絵本の紹介など盛りだくさんだった記憶がある。
今回の講演でも松居さんの言いたかった核心も同じものなのだろう。はなしを聴きながら前回の記憶がよみがえってきた。
「ことばは親から子につたえるもの」
そんなことが今回の中心テーマだったように思う。子どもが2~3才のころ、子どもは毎日同じ絵本を読んでもらいたがる。そして毎日読んでやっていると、そのお話を丸ごと憶えてしまう。松居さんの言葉では、「丸ごと食べてしまう」のだそうだ。そしてこの能力は文字が読めるようになると消えてしまう。こんな話がワンフレーズ話し終わるごとににこやかな笑顔を見せる。松居さんは自身の家族の絵本を通した幸福感を語り、聴いている人たちはそれに共鳴した、そんな講演会であったように思う。
これは又聞きの話だが、以前の松居さんの講演会でのはなし、
最近、息子から、
「非常に印象的に自分の中に残っている言葉の世界がある。
それはおやじがよんでくれた本なのだけれども何の本かわかるか?」
と聞かれた。
「おやじはその本を読んだことすら忘れている、だけど僕は憶えている。」
というんです。『しずかなおはなし』でした。その
言葉とイメージとリズムとこの言葉の世界と
いうものがはっきり自分の中にある。自分が何かを表現しようとするとき、その力となる。」
というんです。そしてそれは親父の声で残っているのだというんです。そういうふうに子ども
の中には、読み手の声で残っていくのです。
こんな風に子どもの中に親の読んで聴かせた言葉のリズムが生き続けている。何て素晴らしい親子のありようだろうと思う。