不況の中で何とか職に就いた私は真っ先にオープンリールデッキを買った。そして始めたことは南高OBの録音のコピーである。私の友人Kさんは、先生の口から漏れ聞かれるアーチストや演奏に対し「聴いてみたい」という好奇心が旺盛で、数々の演奏を見つけだしては私にも提供してくれた。先生が「南高OB」といえばやはり「聴いてみたい」の一心で、先生のところにあるだけの録音を借りてきてくれた。そしてこれを2人分コピーしたのは私の仕事だった。何本かのテープのケースには先生の手で「要保存」とか「要永久保存」とか朱で書かれていた。1955年~72年の録音、72年以外は全てモノラル録音である。私はこの頃になってやっと南高OBの良さを実感できるようになった。特に1955年の第1回東京公演、61年の第3回東京公演、62年の山形での演奏会などは録音の古さを補ってあまりある素晴らしい演奏である。55年の演奏、これはハーモニーが素晴らしい。だからこんなにゆったりとした演奏ができるのかと思う。61年になると趣が変わってくる。ハーモニーから生まれたほとばしるような音楽性という気がする。この頃の南高OBの黒人霊歌は絶品だ。私はSPレコードのコピーやこの南高OBを繰り返して聞いてデッキのヘッドがすり減ってなくなってしまい、一度はヘッドの交換をしなければならなくなったほどだ。
南高OB その3
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