神話では、天照大神が天の岩戸の中にこもってしまった後、困った人々は岩戸の前でどんちゃん騒ぎをして気を惹き、何とか天照大神を引っ張り出してまた明るい世界にしてもらおうと努力します。大和神楽でもスサノオの尊が退場した後、次々と男女踊り手が出てきて舞を披露します。
舞い終わった踊り手は神楽殿の天照大神の並びに腰掛けて次の舞を見物です。踊り手の人たちは一杯ひっかけていますので、一運動(一舞い)のあとの神楽の楽を聞きながら腰掛けているとついいい気持ちになり、舟を漕いでいる人も見受けられます。舟を漕いでいるうちに誤って神楽殿から転落してしまったなんていう有名(?)な話まであるのです。さて、一向に開かない岩戸にとうとう力ずくで岩戸を外してしまおうという豪傑が登場します。何度か失敗した後とうとう岩戸を引っ剥がすことに成功したこの豪傑は大きく息をつき、神楽のクライマックスを見終えた観客からは拍手が湧き起こります。
日本神話を調べると、天照大神を天の岩戸から引き出すのにはこんなに力ずくではなく、岩戸の前でお祭り騒ぎをしてもう一つ太陽があるように思わせ、様子見にちょっとだけ岩戸を明けて外を覗いたところを鏡で反射させて、知恵を絡めて岩戸を開けるのだそうです。しかし、大和神楽では神話にはないヒーローが登場し、このヒーローが大衆に受け入れられているようです。
観客も神話に基づいた、そして多少のアレンジを利かせたこの神楽を楽しみにしており、このストーリーが終わるまでは観客が減ることがありません。「天の岩戸」が終わった後もまだまだ神楽は続くのですが、この最大の山場を見終わると多くの観客は引き上げていきます。私たち家族もここで神社を引き上げたのですが、このとき年輩の集団も引き上げていきました。この集団はかなり遠くから来た人たちで、わざわざこの地の神楽をみるためにやってきたようです。そして駐車場まで歩きながら、
「たいしたもんだ、まったく省略がなく・・・・。うちの部落のものとは全然ちがう。」
などと、口々に賛辞を送っていました。「省略」もしたくてするのではなく後継者不足等いろいろな悩みを抱えてのことと思います。それでも私たちの地区の神楽が褒められることはただの住民にとっても嬉しいことです。
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