藩の要職を務めていた三屋清左右衛門がその職から身を引き、家督も息子に譲ってゆったりとした日々が始まる。一切の雑事から解放されたが、そのあとに寂寥感がやってくる。そんな江戸時代の武士の姿が現代の仕事をリタイヤした後にやってくる虚脱感や疎外感とまったく重なってくる。藩の派閥争いも見えてくるのだが、不穏な空気にも隠居の身でちょっと距離を置いていられる気楽さが漂い、主人公をとりまく事件なども安心して読み進め楽しめる小説。一冊で終わってしまうのがちょっと寂しいかな。
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