「デフ・ヴォイス」
丸山正樹
文春文庫
荒井尚人は両親・兄との4人家族、ろう者(聞こえない人)の中で彼一人がコーダ(聞こえる人)という環境で育った。家族の中での意思疎通は日本手話、そして家族で外に出たときには尚人が通訳を務めてきた。警察職員であった尚人は組織内部の裏金作りに関わせられて内部告発、退職した経歴をもつ。
手話通訳の仕事をとおしてろう者に寄り添う人たちに近づいていく尚人。そんな中でおきる殺人事件に、警察時代に関わったことのあるろう者が容疑者として浮かんでいることを知る。そしてコーダだからこそできる手話通訳者として事件の謎解きが始まる。
警察の取り調べでも裁判の法廷内でも容疑者であるろう者は十分な意思表示や受ける言葉の理解で不利な立場に立たされてきたことを思い知らされます。そしてコーダの人が家族の中でも抱えている孤立感も繊細に表現されていて、聞こえる人聞こえない人の間に存在する様々な障壁や偏見などを見事に描いた作品でした。