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「言葉のひびき」

 みちのく混声合唱団に会報がありました、その名も「みちのく」です。昭和38・39年ころの発行です(東京オリンピックが39年ですよ)。ホッチキス止め・ガリ版刷りで不鮮明のため判読できないところもありますが、人の手による会報の実感があります。
 この会報の中からいくつか紹介したいと思います。分離唱の合唱の大先輩方が当時どんなことを考えていたのか、そんな私たちの好奇心に答えてくれるかもしれません。
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    言葉のひびき
 遠くから何となくきれいなハーモニーが流れてくる。
 「きれいにハモってるね」「ほんとね」思わずそんな会話をかわし、しばし耳をかたむける。
 美しいハーモニーは聞いていて全く身の引きしまる思いがする。ましてやそれが自分達のつくり出したものであったなら、その感激はまたひとしおというものであろう。「ハモる」-私はこの言葉がとても好きである。学問的なことは知らない。外国語から誰かが適当にひっぱり出した言葉であろう。日本語にも、外国語にもない和洋折衷のあいのこ言葉。しかしそんな理屈はぬきにして私はこの言葉の持つかろやかなひびきが何とも言えない。たった一言のこの言葉は美しいハーモニーというもののもつ、複雑な感情を実に○○に言い表していると私には思える。
 みちのく混声では、よく「ハモる」という言葉を使う。始めのうち、私はこのことばには何ともなじめず意味は分かっていてもおかしな言葉だと思っていたものだった。しかし聞きなれ、そして自分でもこの言葉を使うようになると、今度は逆に、何とすばらしい言葉なのだろうと思えてくるのです。不思議と云えば不思議でもある。頭の芯にピッとくるようなすばらしい音の調和を聴覚に感じ、思わず「ハモっているね」と言葉を交わすときの・・・・その生き生きとした表情。その表情に「ハモる」と云う言葉のひびきはなんとぴったりしていることか。
 このように感ずるのは私一人だけであろうか-。いやそんなことはどうであろうとかまわない。
 ようやっと土台を踏みかためて、いよいよこれから大きく伸びようとする「みちのく混声合唱団」。
 大いにハモってハモって、万人の心をマヒさせるようなすばらしいハーモニーを作り出そうではありませんか。
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町はずれの家のうしろへ さびしそうに
あかい夕陽が沈んでゆく
昼の歓呼の声は おもむろにとだえ
厳粛な結びの詩句を唱えながら
おそくなって ほの青い遠空に
もう 夜が ダイヤモンドを振り撒く間
その残光は また ここかしこ
屋根の片隅にうろついている
・・・・リルケ・・・・
(以上、「みちのく」第1号より)

みちのく混声合唱団の楽譜(その3)

 みちのく混声合唱団の合唱曲集には第2集があります。残念ながら実物は手元にありませんが、以前にコピーをさせてもらいました。以下にその目次を紹介します。第1集では22曲がおさめられていましたので、その続きからの通し番号がふられ、23~43の21曲です。また、目次の下にはこの楽譜に対する思いが綴られています。
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    23 夕やけ     ・・・・佐々木迪也
    24 ひとりひとり  ・・・・佐々木迪也
    25 オーラリー   ・・・・イギリス民謡
    26 海に来よ    ・・・・イタリア民謡
    27 眠れよ     ・・・・Anaimaus
    28 やさし愛のうた ・・・・J.L.Molly
    29 母のおもかげ  ・・・・アメリカ民謡
    30 山の乙女    ・・・・スイス民謡
    31 五月      ・・・・W.R.Mozart
    32 Adoramusute   ・・・・L.Hoffman
    33 明日まで    ・・・・J.A.Parks
    34 空しく老いぬ  ・・・・スエーデン民謡
    35 神の御旨は   ・・・・J.S.Bach
    36 浜の子守歌   ・・・・J.Barnby
    37 おぼろ月夜   ・・・・小学唱歌
    38 夏の思い出   ・・・・中田喜直
    39 居眠りじぞうさん・・・・本居長世
    40 ロッホローモンド・・・・スコットランド民謡
    41 神のみまえに  ・・・・J.S.Bach
    42 聖なるかな   ・・・・F.Schubert
    43 故郷の家    ・・・・アリゾナ民謡
 みちのく混声のために、こんなに素晴らしい編曲をして下さった佐々木先生の合唱に対する情熱に私達は答えよう。
 私達の一人一人の心がこの曲集を通じて、ますます豊になった時、心のハーモニーも奏でることができるだろう。
 この曲集を手にする喜び-、それは合唱の喜びであり私達の“宝”でなくてはならない。
                                      一九六四年六月
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 この曲集のそれぞれのページにも編曲の日付が記され、すべてこの年の3月・4月となっています。「山の乙女」・「Adoramusute」・「明日まで」・「オーラリー」、山形南高OBでおなじみのこれらの曲の混声編があることも興味深いですね。この楽譜は昭和39年6月21日発行と記されています。第1集からわずか2週間でこの第2集が発行されました。編曲からわずか2ヶ月ほどでこの2つの曲集をガリ版刷りで仕上げた団員の方のハート、熱いですねー!。

みちのく混声合唱団の楽譜(その2)

 ずいぶん前に書いた記事「みちのく混声合唱団の楽譜」について、掲載されている曲を知りたいという声がありましたのでお伝えします。
                目 次
                第一集
        1 しかられて・・・・・・・弘田竜太郎
       2 われは幼く・・・・・・・・・・山田耕筰
       3 待ちぼうけ・・・・・・・・・・山田耕筰
      4 夏の夜の星・・・・・J.B.Woodbary
      5 浜辺のうた・・・・・・・・・・・成田為三
     6 ゆりかご・・・・・・・・・・・・・・・草川 信
     7 菩提樹・・・・・・・・・・・・・シューベルト
    8 ブラームスの子守歌・・・・・・ブラームス
    9 キュッケンの子守歌・・・・・・キュッケン
   10 モーツァルトの子守歌・・・・モーツァルト
   11 早春賦・・・・・・・・・・・・・・・・・中田 章
  12 樅の木・・・・・・・・・・・・・・・・・ドイツ民謡
  13 野ばら・・・・・・・・・・・・・・・・・ウェルナー
 14 ローレライ・・・・・・・・・・・・・・・・F.Silcher
 15 遠い昔の・・・・・・・・・・・・・・・・・フォスター
16 夜のごとしずけし・・・・・・・・・・Carl Bohm
17 春の歌・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ドイツ民謡
 18 月夜・・・・・・・・・・・・・・・・・・・Anoymous
  19 浜千鳥・・・・・・・・・・・・・・・・弘田竜太郎
   20 今様・・・・・・・・・・・・・・・・・・・日本古謡
    21 すすき・・・・・・・・・・・・・・・・土井靖一
     22 愛しのクレメンタイン・・・アメリカ民謡
 原版に似せて配置してみました。先生の前書きは(1964年)5月24日と日付が記されていますが、楽譜の各ページの末尾には編曲の日付が(Mar.’64)とか(3.Apri.’64)というように記されており、この年の3月から4月8日の短期間にこれだけの曲を編曲されたことがわかります。3月10日から14日は毎日編曲されており、先生がこの合唱に情熱を注いだことがうかがわれます。

みちのく混声合唱団の楽譜

みちのく

転勤その他で数度の転居をした私は、当面使いそうもない荷物を実家に置いている。合唱からも縁遠くなった私なので、合唱関係の荷物の多くもお蔵入りとなっている。そんな古い荷物を整理していたら、ガリ版刷りの合唱曲集が出てきた。タイトルは「混声合唱曲集みちのく第1集」佐々木基之編、みちのく混声合唱団発行とある。黒の表紙に上質紙を裏張りして表紙とし、グレーでタイトルが書いてある。先生の著書「耳をひらく」に登場する「みちのく混声合唱団」、あの本の文章からはこのメンバーが先生と心通わせていた方々ということが伝わってくる。目次ページを縦に2分割して、右側に目次、左側に先生のことばが掲載されているので以下に記す。

 

みちのく混声合唱団のために  佐々木基之

私の三十年来の夢、それは私の思うようにうごく合唱団を育てたいということであった。山形へ毎年何回か通って十二年経ってしまったが、メンバーも毎年若干変わり、今では三、四名しか残っていない。三浦・村山兄弟の協力と努力でみちのく混声合唱団が誕生して半歳。今ではこの合唱によって生き甲斐を感じている者は私一人ではないと思う。混声合唱の編曲が、古いものに手を入れたとしても一ヶ月余りの間に八十曲できてしまった。前記の三名の協力でこのプリントの曲集が出来たことは、私にとっては一流の出版社から出たよりも嬉しい。日曜の夜、仲間が帰った後の私は次の日曜日まで七日もあること、その中間の六日間を懸命に生き抜くこと等を考えている。日曜の午後の集まりはこうして私の生き甲斐となっている。

五月二十四日 夜

 

この楽譜は昭和39年6月7日発行と記されている。先生のことばの5月24日も昭和39年だろう。当時の先生の合唱団への気持ちがひしひしと伝わってくる。